ネット上のさまざまな世界を横断しながら、アバターとしてオンラインを中心に活動してきたデジタルアーティストのLaTurbo Avedon。仮想世界での“本人”へのインタビューからは、そのアイデンティティの曖昧さゆえのアーティストとしての真価が浮かび上がってきた。
アーティストのLaTurbo Avedon(ラターボ・アヴェドン)が待っていてくれたのは、がらんとして人の気配がほとんどない「Orbital」という名のトランス系ナイトクラブのフロアの真ん中だった。点滅するライトにプラチナ色の髪を輝かせながら、アヴェドンは広いダンスフロアに浮かぶ紫色の球体の下でひとり体を揺らしている。
この宇宙をテーマにしたディスコは仮想世界の「Second Life(セカンドライフ)」にあり、場所はノートPCのキーボードをカタカタとたたくだけで見つかった。それなのに約束の時間に遅れてしまったが、初心者なので無秩序に広がるバーチャル空間でどうふるまえばいいのかわからずにいる。アヴェドンが姿勢を正して立っているというのに、自分のアバターはその周りをゾンビのようにぎくしゃくと歩き回るだけだ。
Second Lifeのにぎわいに慣れているアヴェドンは、とても落ち着いた様子である。10年以上にわたりアバターとしてインターネットの世界だけで活動してきたアーティストのアヴェドンにとって、バーチャルな世界こそが永遠の居場所なのだ。
存在そのものがアートプロジェクト
アヴェドンと向き合う際の決まりごとはこうだ。アヴェドンはオフラインには存在せず、自らを「インターネットで生まれた」と称している。Second Lifeやオンラインゲーム「フォートナイト」「Star Citizen」など、ネット上のさまざまな世界を横断しながらアート活動を展開し、完成した作品が欧米各国の名門ギャラリーに展示されているデジタルネイティブな存在なのだ。最近ではデジタルディスプレイ上の作品がニューヨークのホイットニー美術館で展示された。
このアーティストからアートを切り離すことはできない。アーティスト自体がアートプロジェクトだからだ。人間の体から解放され、ジェンダーに縛られないバーチャルな存在となったその表情は、生き生きとしている。
アヴェドンを捉えるとしたら、リル・ミケーラのようなアバターのインフルエンサーのハイアート版とでも呼べるかもしれない。その特徴を表現するなら、ホログラフィーでつくられた日本のポップアイドル「初音ミク」と英国の匿名ストリートアーティスト「バンクシー」を足して2で割ったような、という形容が最もふさわしいかもしれない。そのペルソナの活動そのものがプロジェクトの一部になっているのだ。
現実味の薄い初音ミクと同様に、アヴェドンはアバターによって視覚化されている。しかし、人間たちによるソフトウェアを駆使した共同作業の産物であることが公になっている初音ミクとは反対に、アヴェドンはその背後でひとりあるいは複数の人間がキーボードにかじりついているとは認めていない。バンクシーや、ペンネームを使って文学界で活動するエレナ・フェッランテのように、アヴェドンはアーティストとしての公の顔と決めたもの以外、一切のアイデンティティを表に出していないのだ。
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