大学生が利用する会員制交流サイト(SNS)をめぐり、一部学生の個人情報管理が不十分だとして、各大学が注意を呼び掛けている。学生の中にはSNSのアカウントを匿名にしつつも、大学や学部、学年をはじめ個人を特定できる情報を掲載したり、顔写真を掲載した写真共有アプリ「インスタグラム」を紹介したりしているケースがある。新型コロナウイルス禍でオンライン授業が増え、学生がSNS上のつながりを求める傾向が強まる中、専門家は「警戒しながらSNSを使うべきだ」と訴えている。(藤井沙織)
「ストーカーなどの被害に遭うリスクを考えてほしい」。同志社大の担当者はこう話し、学生の認識の甘さを指摘する。実際に東京の大学では昨年、ツイッターで自身のインスタグラムを紹介していた1年の女子学生が、インスタの画像を飲酒しているように加工され、別サイトで公開される嫌がらせを受けた例があった。ツイッターでつながった人物から執拗(しつよう)にメッセージを送られ、対応を避けた上での被害だったといい、この大学の担当者は「学生らは、SNSを安全に使いこなせていない」と話す。
■「時間割アプリ」に警戒
さらに多くの大学が問題視するのが「時間割管理アプリ」の利用だ。学生が自らの学籍IDとパスワードを登録すると、各大学のサーバーから履修情報を取得して時間割を作成、休講の情報もアプリに届くようになる。学生にとっては便利だが、アプリを提供するのは大学とは無関係の企業で、企業側に悪意があれば、サーバー上にある個人情報が抜き出される恐れがあるという。
同志社大は新入生に配布する冊子などで、大学が提供していないアプリに学籍IDなどを登録しないよう周知。だが、SNS上では在校生が新入生に利用を勧めているといい、同大の担当者は「情報漏洩(ろうえい)の危険性を想像できていない。社会人が勤務先のIDやパスワードを他者に漏らしたら、即アウトだ」と指摘する。
追手門学院大の前田至剛(のりたか)准教授(社会学)は「社会の流動化で将来への不安が強い中、学生が『今』をSNSで発信し、他者の承認やつながりを求めるのは必然」と学生の心情に理解を示す。一方で、企業側のねらいについて「SNS上では嗜好(しこう)や交友関係がオープンになっており、企業側は学生向けのサービス提供と引き換えに企業アカウントをフォローさせるなどしてこれらの情報を入手している」と指摘。「企業側の意図を理解した上で、警戒しながらSNSを使ってほしい」と呼び掛けている。
■「#春から○○大」関西にも
会員制交流サイト(SNS)を通じた大学生の交流は入学前から活発化し、4月にかけて、「#春から〇〇大」のハッシュタグ(検索目印)をつけた投稿が増える。新入生が大学に関する情報や同級生とのつながりをいち早く求めるもので、新型コロナウイルス禍で交流の機会が減ったことでブームが加速した。大学側は、カルト団体などが接触を図る可能性もあると警戒している。
「DM(ダイレクトメッセージ)で声かけてくれるとうれしいです」「履修登録やサークルの相談に乗ってください」。今春、ツイッターに「#春から同志社」のハッシュタグをつけた、同志社大(京都)の新入生とみられる投稿が相次いだ。「友人がいなくて不安」との書き込みも。同大の担当者は「この春、関西で急速にブームが拡大した」といい、「コロナ禍による不安が影響しているのでは」とみる。
懸念されるのは、悪質な勧誘や詐欺の被害だ。学生団体などを名乗るアカウントが「#春から~」で情報発信したり、新入生の投稿に返信したりしているが、「カルト団体などが正体を隠して接触を図っている可能性もある」と同大担当者。中には大学の公式団体を装うアカウントもあり、「見つけ次第(運営会社に)通報しているが、きりがない」という。
コロナ禍で勧誘の手口も変化している。上智大(東京)の担当者によると、以前は公式団体や大学OBを装い、「#春から上智」で会費制パーティーに勧誘する投稿がみられた。だがコロナ禍でパーティーはなくなり、DMで個別に歓迎会に誘われたり、性的な画像を送られたりするケースがあったという。
ただ、大学側は学生による投稿自体を禁じてはいない。上智大の担当者は「学生同士の交流を否定するのではなく、トラブルに巻き込まれないよう学生の意識を高めたい」と話した。
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