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Wednesday, November 4, 2020

国家間で加速する「情報戦」に対抗、高い言語理解力をもつAIが本格的に動き始めた - WIRED.jp

コーカサス山脈沿いに位置するナゴルノ・カラバル自治州の領有権を争う戦いが、アゼルバイジャンとアルメニアの間で2020年9月に再び始まった。ところが、実は戦闘再開の何カ月も前から、この地域を巡る情報戦がすでに始まっていたのだ。

この事実は、米軍特殊部隊の監督機関である米特殊作戦軍(USSOCOM)のために開発された人工知能(AI)技術を使って明らかになったものである。情報分析の専門企業であるPrimerが開発したこのAIシステムは、公開されている何千件もの情報を分析し、情報操作に使われた重要なテーマの特定に成功した。

Primerのシステムを使えば、機密情報の分析も実質的に可能だという。『WIRED』US版の求めに応じてまとめられた分析データを見ると、ロシアの各報道機関が7月以降、同盟国であるアルメニアに有利な報道をする一方で、敵国アゼルバイジャンをおとしめる論述を展開してきたことがわかる。

かつて司令官としてUSSOCOMを率い、退役後の現在はPrimerの経営幹部であるレイモンド・トーマスによると、米国防総省には絶えず大量の情報が飛び込んでくるが、誤った情報も多いという。「流れについていくには、人を集めてひとつずつ読み込んでいくような手は使えません」と、彼は言う。「コンピューター化がどうしても必要なのです」

飛躍的に向上するAIの言語理解力

こうしたなかPrimerは、USSOCOMと米空軍を顧客とする「数百万ドル規模」の技術開発契約を勝ち取ったと10月初めに発表している。著しい進歩を見せる自然言語処理技術を駆使することで、さまざまな文書に記載された人物、場所、出来事を特定し、それらの情報をつなぎ合わせて傾向をつかむ技術だという。

防衛やインテリジェンスの分野では、機密情報に混ざって大量に流れ込んでくるソーシャルメディアなどの機密性の低い情報も分析しなければならない。このことがPrimerのほか、Splunk、Redhorse、Strategic Analysisといった情報分析の専門企業にビジネスチャンスを提供している。テキストだけでなく、音声記録や画像など、さまざまな形式のデータから意味のある情報を引き出すことの重要性が、さらに高まっているからだ。

Primerに出資している企業のひとつが、米中央情報局(CIA)が支援するヴェンチャーキャピタルのIn-Q-Telだ。In-Q-Telは、20年9月に上場したパランティア(Palantir)にも資金を提供している。パランティアは、携帯電話の通信記録やインターネットの履歴など、多様な情報を収集・分析するツールの企業として設立された。現在はAIを使って文書の解析と編集をする技術も提供している。

大容量の機械学習モデルにテキストトレーニングデータを大量に読み込ませることによって、このところコンピューターの言語理解力は飛躍的に向上している。このことはインテリジェンスやビジネスの世界に大きな影響を及ぼすかもしれない。情報産業に注力するPrimerだが、過去には大手スーパーマーケットのウォルマートと契約を結んだこともある。契約の内容は、顧客の購入傾向を調べたり、サプライチェーンの問題点を洗い出したりする技術の提供だった。

人間なら数時間の分析を10分で完了

ロシアの情報操作に関するPrimerの分析は、AIが情報を整理するだけでなく、誤った情報の識別もできることを端的に示している。アゼルバイジャンとトルコをナゴルノ・カラバル自治州の侵略者に仕立てる企ては、緊張の高まりを早々に知らせる警告か、事態をさらに悪化させようとするロシアの姿勢の表れだったのかもしれない。

Primerの報告書は、3,000を超える文書から集めた985件の事例を、特に重要な13の事実に絞ってまとめている。人間のアナリストなら数時間を要したはずの分析を、Primerのシステムはものの10分で終わらせてしまった。このシステムは英語のほか、ロシア語と中国語を含む複数の言語に対応している。

Premierの報告によると、ロシアの報道機関は8月中旬まで、アゼルバイジャンの同盟国であるトルコがアルメニアに軍隊を投入しているとのニュースを次々に発表していた。一方で、他国のメディアがそうした兵力増強の話題に触れていないことから、これは組織的な情報作戦の一環だった可能性がうかがえる。「あらゆる情報について、正しいか間違っているかを見分け、意思決定に生かす能力が何よりも必要になります」と、Primerのトーマスは言う。

Primerの技術力の高さは、近年のAIの進歩が果たしうる軍事的な貢献の大きさを示していると、新アメリカ安全保障センター(CNAS)のシニアフェローで元CIA情報アナリストのマーティン・ラッサーは言う。USSOCOMは膨大な量の情報を素早く処理しなければならないが、多くの場合は先見性を発揮してテクノロジーをうまく利用していると彼は指摘する。この件についてUSSOCOMは、コメントを拒否している。

「価値ある技術」がようやく登場

国防のためのAI利用については、これまで派手な宣伝文句が数多く飛び交ってきた。しかしラッサーによると、米国のインテリジェンス産業にとって価値のあるソリューションをもたらす企業が、ようやくいま登場し始めたところだという。

「怪しげな謳い文句ばかりだった時代が、やっと終わったのです」と、ラッサーは言う。ロシアの情報操作に関する報告書に念入りに目を通したうえで、Primerは画期的な技術を開発したようだと彼は語る。「かなり優れた自然言語処理能力をもつシステムだと思われます」

Primerの技術は、自然言語処理のための機械学習における近年の進歩の上に成り立っている。同社のブログ記事のなかで概説されている通り、Primerは脈絡のないテキストデータを大量に読み込ませた機械学習モデルをカスタマイズし、文書内のさまざまな名称、場所、組織を、高い精度で正しく分類できるシステムを完成させた。この際には、「パリ」と「フランスの首都」のように同じものが別の呼び方をされていることがあるので、データの扱いには注意が必要になる。

ブルッキングス研究所のフェローでAI研究が専門のクリス・メセロールによると、Primerのテクノロジーは、アナリストたちが今後どのようにAIシステムと連携しながら仕事をしていくのかを示す好例だという。「驚くようなことではありません。あらゆることを理解できるAIが登場すれば可能な話です。ただし、Primerが挑戦しているのは技術的に非常に難しい課題です。恐るべき技術と言っていいでしょう」と、彼は指摘する。

さらに巧妙な情報戦に対抗するために

軍事や情報の関連機関は、今後ますますAI技術を競争上の強みとみなすようになるかもしれない。今後は情報源が急速に増え、さらに巧妙な情報戦が繰り広げられるようになるからだ。

ある試算によると、アナリストたちが目を通さなければならない情報の量は、1995年から2016年の間に10倍に増えたという。「今後も加速度的に増え続けるでしょう。しかし、それに合わせて人手を増やすことはできないのです」と、メセロールは指摘する。

Primerは軍事インテリジェンスの枠を超え、ビジネスを拡大していくだろうとメセロールは言う。「相手が諜報機関であろうとフォーチュン500に名を連ねる大企業であろうと、あらゆるデータを人間たちが管理できるよう体系化するというPrimerのやり方は変わらないはずです」

※『WIRED』による人工知能(AI)の関連記事はこちら

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