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Sunday, May 3, 2020

外出自粛がつらい? クマのなかに閉じこもったアーティストが隔離のコツをアドバイス | 「閉じ込められるのは喜び」 - courrier.jp

石に閉じ込められる作品『石』(2017)、瓶に閉じ込められる作品『瓶』(2015-2016)、クマの剥製に閉じ込められる作品『クマの皮の中で』(2014)で知られるフランスのパフォーマンス・アーティスト、アブラアム・ポワンシュヴァル。

自ら狭い場所へ閉じこもる「隔離」に魅せられたアーティストが、閉じ込められる喜びと外出自粛を楽しむためのコツについて、仏紙「ロプス」に語った。


数々の奇妙な作品を制作してきたアーティスト


ポワンシュヴァルは1971年生まれのフランスのアーティストだ。2000年代初頭にナント美術学校を卒業したあと、まず完全なる自給自足をテーマとした実験的作品に取り組んだ。

相棒のローラン・ティクサドールと共に、ポワンシュヴァルはマルセイユに面するフリウル島で、水とカメラだけを頼りに、一切の蓄えも道具も持たずに過ごしたのだった。

ふたりはまたフランスを一方から他方へと直線で横断するという不可能に思えるパフォーマンスを、あらゆる障害を乗り越えて実現した。

しかし、ポワンシュヴァルをとりわけ有名にしたのは、15年ほど前からはじめた、しばしば極限の条件のもと「制限された」空間のなかに閉じこもるパフォーマンスである。

2012年には、南フランスのディーニュ=レ=バンから北イタリアのカラーリオまでの間、古代ギリシャの哲学者ディオゲネスの姿を演じてみせた。何週間ものあいだ、乗り物にも生活拠点にも暗室にもなる金属の円柱を押して転がしながら山々を越えていったのである。

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス『ディオゲネス』(1882年)。ディオゲネスは古代ギリシアの哲学者。大樽を住処にしていた
Photo: Wikimedia Commons


さらに彼はマルセイユのギャラリーの地下に掘った狭い穴のなかで極限の条件のもと1週間潜りながら過ごしたこともある。

ほかにも、フランス中西部トゥールの町の広場の地下にある下水道で1週間過ごしたこともあったし、パリのパレ・ド・トーキョーでの個展の際にはアクリルの立方体の中に閉じこもって卵を温めたりもした。

パフォーマンス作品『卵』でポワンシュヴァルが温めていた卵。イスの座面の下に設置されていた
Photo: Thierry Orban / Getty Images


パリ狩猟自然博物館でワラを詰めて剥製にしたクマのなかに10日間泊まり込んだこともある。
──あなたは少なくとも隔離に関して独特な体験をしていますが、そんな風に閉じこもることへの嗜好はどこから生じたのですか。

物の内側に隠れること、そこで消え去ることに、深い幸福を感じます。それがどこから生じたのかは正確には分かりませんが、そうなのです。

ある日突然生じたわけではなく、時間の中で形成されていった欲望です。

隔離されることへの嗜好はありますが、すごく広い空間に対しても特別な魅力は感じます。一方から他方への移行に魅了されているのです。

──物の内側に入ること、たとえば石のなかにはめ込まれること、あるいは剥製のクマの腹の中に閉じ込められること、それは母親の胸に抱かれることへのノスタルジーでしょうか。

私のアプローチは、生まれる前の体内での生と非常に強い結びつきがありますが、それだけではありません。こういったシチュエーションが大好きになるまでに、私の人生のある瞬間に何が起こったのか。謎です。

それについてはもちろんたくさん考えましたが、そのルーツとなるはっきりとした事実は分かりません。たしかに子供のころ、私は穴を掘るのがすごく好きでしたし、ミュージシャンだった両親はよく旅行に出かけ、車で往復ということは頻繁にありました。

うちの家族は一種の自給自足のような生活をしていました。きっとそのすべてが、私のなかに少し特殊な現実の宇宙を作り上げ、知識を築いてくれたのでした。現在、私が発展させている閉じこもりの思想の第一歩です。

ただ「そこにいる」という時間を味わう


──あなたの閉じこもり実験は、ものすごく「極端」に思えます。多かれ少なかれサバイバルと隣り合わせです。しかしあなたはそれについて、真の大いなる喜びだと語っていますね。

私は決して痛みや苦しみを好むような人間ではありません。殉教者的な側面に感動することはありません。私にとってそうした物は大いなる喜びの場所なのです。

もちろん退屈を感じることもあるし、何らかの努力もしなければなりませんが、それは心を動かされるアプローチであり、旅の次元に属するような何かなのです。

まるで視野がひっくり返ってしまい、このきわめて狭い空間の中に、別の広大な空間が隠されていると気づくようなものです。そうしたあらゆる場所を巡るのがとても好きなのです。

私は「見物人」です。時間をかけて観察するのがすごく好きなのです。私は物を見つめることで膨大な時間を過ごしていて、それは本当に大切な瞬間です。

今回の外出禁止期間については、あらゆる健康や集団的リスクに関する問題は別ですが、こうした時間、つまりただ「そこにいる」という時間を再び見出すことは私にとって大きな幸せなのです。

私は教師もしており、以前はいろいろな物事の準備をしなければなりませんでしたが、こうした時間のおかげで元気がみなぎってきて、少し忘れていたかもしれないような一種の喜びが沸き起こってくるのを感じています。私はものすごく幸せだと感じているのです!


──何日間もつづけて、水上に浮かぶ巨大な瓶や、狭いくぼみや、さらにはアクリルの立方体などの中に閉じこもって過ごすのは、怖ろしいことのように思われます。あなたはそうした監禁実験から、何を得ているのですか。

私はトランス状態やシャーマニズムに関心を持っている人物と話をしたことがあります。一種のトランス状態へ、内面的な旅へと至るために太鼓やリズムを必要とする人々がいます。

『瓶』(2015年)で用いられた巨大な瓶
Photo: Sabine Glaubitz / picture alliance / Getty Images


私の場合、そうなるためにはさらに石とか穴といった物が必要なのです。この石や穴というのは、世界に対する関係やあり方を築く別の方法でもあります。

たとえば石の内部にいたときに、その石が私の日常では触れることのないような音を拾っていることに気づきました。そして、この石もまた耳なのだと気づいたのです。

さらに穴の中ではさまざまなことが起こります。私たちの身体、私たちの内面的な変化は、その場所で居心地の良さを感じるために、さまざまなものを作り出すわけです。まったくひとりぼっちというわけではなくなる瞬間があるのです。

閉じこもることで私たちの感覚はとぎすまされる


──そのとき隔離は残響室となって、感覚や思考が増幅されるのですか。

ふだんは注意を向けることのない細やかな物事や感覚が中心に躍り出てきます。それはまるで別の宇宙に飛ばされたかのようで、虹も見えるし、想像もしていなかった光景を旅することもできます。

それはとても強烈なものです。私たちの知覚の尺度を変えてしまうような創造的拘束です。知覚は、ふだんよりもはるかに拡張されます。

普段の私たちは情報や誘惑にあまりにも流されており、絶えず直接的で有用な方向へ進んでいます。そのなかで突然、スペクトルを拡張することができ、有用性が背後へ退くのです。それは学習でもあるのです。

──パフォーマンスを重ねるごとにあなたの隔離はエスカレートし、だんだん極端になっているようですが。

必ずしもそうではありません。たとえばリヨン・ビエンナーレの際、私は雲の上を歩く装置を組み立てました。それは私をもてなすために練られた空間ではなく、簡単に歩くことができません。

リヨン・ビエンナーレの際は雲の上を歩く装置を作った

雲の上のバルーンに吊られながら、どうやって自分の身体を動かすのか。

ものすごく異なった環境にいるとき、歩くこと、コップ一杯の水を飲むこと、ハーモニカを吹くことなど、いつも自然に行っている一切をどのように再現するのか。

そうした単純な身振りのすべてをどうやって再び自分のものにするのか。

この実験は映像化されました。なぜかというと当然ですが、一般の人々はこういった場所だと私について来ることができないからです。

──狭い空間に閉じ込められているとき、ポイントとなるのは、拘束の度合いですか。そこを構成している素材ですか。

ポイントとなるのは、あなた自身とその空間のあいだでの一種の遊びです。あなたを入れている物と、あなた自身のあいだの言語を発明しなければならないのです。私はその遊びが大好きです。

今、私は養蜂家と協力してハチの巣の内部で暮らすというプロジェクトに取り掛かっています。そのハチの巣は2万~5万匹の個体による社会です。ハチの巣という巨大な母権社会において、私の存在を受け入れてもらうためにはどうすればいいか、いかにして私はハチの巣に対して有益になったりならなかったりするのか。

古代から現代に至るまで、ハチの巣やミツバチはあらゆる社会のイメージを表現してきました。私たちがこのイメージをどのように用いているのか、いかにして私たちはそこに本来の力を取り戻させるのか、ということにも関心があります。実現できるかはまだ分かりませんが。

アートは自由をもたらす


──しかしハチの巣の中で暮らすなんて不可能に思えます!

私はプロジェクトの度に、毎回「それはできるのか?」という問いを立て、そのうえで取り掛かっています。石の中に閉じこもったときは、最初「ものすごく狭いぞ」「どうしようか?」と考えました。

それから1日が経つと、そこまで狭いとは思わなくなったのです。手を少し動かせることに気づいたのでした。さまざまな調整、調和、構成を見つけ出したわけです。これが学習なのです。

このようなパフォーマンスを行うと、人々が自分の望むままにいられる場所というある種の自由が生まれます。卵を温めたときには、こうした状況がもつ力、こうした状況が生み出しうる現象、そして素晴らしい満足感を感じ取りました。

多くの見物客が「なぜかは分からないけれど、あなたのこうした姿を見るとものすごく気分が晴れます」と、私に言ってくれました。


──実験を見に来た人たちが感じたその満足感を、あなたはどのように説明しますか。

おそらく私が極限の状況のなかで生きているのを見るという単純な事実によって、彼らには自己投影したり思考したりする空間が開かれたのです。

非現実的なことが現実になる場所、それゆえどんなことを考えても良いし、何の問題もないのだと感じることができるような場所です。

また、こうした物の内部というのは、クマや石との不可能だと思っていた交流が可能になる空間でもあります。

『石』のために石に入るポワンシュヴァル。この石には呼吸をするためのパイプと脈を記録するためのモニターが備え付けられている2017年、パレ・ド・トーキョー
Photo: Sabine Glaubitz / picture alliance / Getty Images


外出禁止は自分を再発見する機会


──現在、私たちは何十億人がこうして隔離されています。どうすればこの状況にそこまで苦しむことなく生きられるでしょうか。

当然、この状況は努力を要するものですが、隔離というのは本当に居心地の良い経験になりうるものです。もちろんそうすることが可能な状態にあるかぎり、ではありますが。

別の視点から物事を考え始めて、これは強制されたものなのだということを一瞬忘れてみると、途端に見え方が変わります。

隔離日記をつけている人がいますが、それは興味深いことです。私は数年後に、この閉じこもり生活の文集がどんなことを教えてくれるのか想像しています。

それは私たちの社会に対するひとつの視点、すなわち私たちが自分の問題や行為に関し、自覚のないまま、どんなふうに多くの面で大いに閉じ込められているかについてのひとつの視点となるでしょう。

今回の外出禁止は、自分を再発見し、これまで無視してきた自分自身との関係を結び直す機会かもしれません。それは日常のさまざまな強制が起こしている混乱を乗り越えていく機会なのです。

こうした強制は突如として前より無意味に思えるようになってしまいました。今回の外出禁止は、一部の人にとっては非常に暴力的かもしれません。自分を人生の核心へと連れ戻すかもしれません。

どうにかして自分の生活をきちんと整えて枠組みのなかで流れていくように万策を尽くしてきたのに、「私とは何者なのか?」という自問が、急に湧いてくるかもしれないのです。

他者、コミュニケーション、小さな物事などに対する配慮もあらためて発見することになります。

──あなたにとって、それは幸福ですか

私は自分の学生と連絡をとっていますが、隔離、つまりこの移動なき旅の体験はたくさん行われています。それぞれが新しい生活を作り上げているのです。

私にとって、それは心地よいものです。休息であり、心休まる段階です。私としては時間があって満足しているし、体調も良いと感じています。

私が暮らしているマルセイユでは、我が家のバルコニーは三角形の緑地に面しています。窓からマグノリアを見たり、鳥を眺めたりするのがとても好きです。誰もが自分にとって観察したり瞑想したりするための光景を作り出すことができます。

子供時代、私は自分の部屋の壁を見つめながら膨大な時間を過ごしました。毎回、そこにまだ見たことのない場所を発見し、信じられないことだと思っていました。私はものすごく瞑想的な人間なのです。

『クマの皮のなかで』のためにクマの剥製のなかに閉じこもるポワンシュヴァル。2014年

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May 03, 2020 at 04:25AM
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