富士山に降り注ぐ雨が、長い年月をかけて湧き水となり大地を潤す。自然界のさまざまな命の営みに恩恵を授けた水はやがて、駿河湾に流れ込む。壮大な物語をパステルカラーで表現するのはアーティスト松瀬千秋さん(65)=静岡市清水区=。水彩画「虹色の海」は、柔らかな光を放つ明るい色彩と、伸びやかな感性が響き合い、見る人を笑顔に導く。
波間に見え隠れするのは植物や海洋生物。「陸と海は多様な命を育む水でつながっている」。画家として活動を始めた20年以上前から「多様性は意識してきたテーマの一つ」と語る。
富士山の山肌に描いた小さなモザイクタイルの「緻密な集積」は、近年の作風を特徴づける重要なモチーフ。「どのピースが欠けても成立しないのは人生のよう」。自身に起こる出来事や人々との出会いが生む「日々のかけら」を、モザイクや点描の集積に重ね合わせる。
1990年に初めて訪れたパリが画家を志す原点となった。美しい街並みを見た瞬間、「アートの神様が背中を押したとしか思えない唐突さで」この風景を描きたいと胸が高鳴った。帰国後しばらくは自己流で描いていたが、夫の転勤に伴う米サンフランシスコ滞在が転機となった。英語が苦手でひきこもりがちな生活を送る中、大学で水彩画を学べると知り一念発起。デッサンや色彩学などを基礎から学んだ。
98年からおおむね年1回のペースで個展を開き、清水の魅力を多くの人に伝えようと観光ガイドも自ら発行する。2010年から描き始めた富士山は「人を元気にする内なるエネルギーを秘めている」印象から、ピンクや赤で表現することもある。
「人はいい心持ちで生きていくことが大切。だから芸術を論じる評論家より『絵のことは詳しくないけれど…』という人から『絵を見て気持ちが明るくなった』と言ってもらえた時に喜びを感じる」
(教育文化部・柏木かほる)
「松瀬千秋展」は30日まで御前崎市の静岡カントリー浜岡コース&ホテルで開かれている。
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