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Saturday, April 8, 2023

なぜ青い救急車? アーティスト山口歴と共に常識と闘う - DMM inside

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救急現場の課題を解決する「青い救急車」とは?

まずは、ベルリングの事業内容について教えてください。

飯野:救急・消防のハードウェアベンチャーとして、「人に役立ち、未来をつくる。」という理念のもと、より多くの命を救う手助けとなるプロダクトの創出に挑戦しています。
消防現場の潜在ニーズから、軽量化技術を活かしたCFRP(カーボン)製「ハイルーフ」を企画開発し、消防車の新しい利用形態を創造してきました。その後は消防車で培った知見を応用し、新型救急車C-CABINを開発。現在は救急現場の課題解決にも取り組んでいます。

救急車や消防車などは寡占状態にある市場ですよね。難しいチャレンジだと思うのですが、なぜ消防車や救急車を開発しようと思ったのでしょうか。

飯野:亡くなった母親の代わりに自分を育ててくれた祖母から、「一度きりの人生、命を燃やせる仕事をしなさい」と教わっていたというのが大きな理由です。人の命を救うことでそれを実現しようと決意して起業しました。スタートは消防領域でしたが、ある程度実績を残せたところで、今度は挑戦の幅を広げようと救急車の開発に乗り出しました。

これまでの救急車の課題を教えてください。また、それをどのように解決しようとしたのでしょうか。

飯野:日々現場を取り巻く状況が変わっているにも関わらず、救急車の性能は長い間アップデートされていないことがわかりました。そこで我々は現場の課題に合わせ、より広ふい作業スペースの確保や揺れの軽減、電動ストレッチャーや電動2段ステップの搭載などの改良を行い、「広い、揺れない、使いやすい」をコンセプトにした新型救急車C-CABINを開発しました。

※こちらの記事で、C-CABINについて取材しています。揺れない救急車が小さな命を守る。歴史ある小児医院がベンチャーの救急車を導入した理由

今回山口さんとコラボして制作した「青い救急車」について教えてください。

飯野:実はいま救急現場における一つの課題となっているのが、救急車の現場到着時間の増加と、それに伴う救急隊員の負担増加です。原因としては、コロナ禍による出動件数の増加に加え、車の遮音性向上によってサイレンの音が聞こえづらくなったため、救急車に気づきづらくなっていることなどがあります。そこで我々はC-CABINを開発した際、色灯の発光範囲を広げる設計や、サイレンの音がより広範囲に聞こえるような設計を行い、救急車の円滑な緊急走行の実現を目指してきました。

C-CABINを救急隊員さんに実際に見てもらったところ、「これもいいんですけど、実は最近娘からこんな話を聞いて……」と衝撃的な話を聞かせていただいて。救急車の赤白のカラーリングは一部の色弱者の方にとっては見えづらいんです。実際にアプリで色弱者の方がどう見ているか確認したところ、赤が茶色く見えて。そこで、緊急車両への優先意識向上を呼びかけていくために、どんな色覚の人にも見やすい新たな救急車として、「青い救急車」を開発しました。

※「青い救急車」は色の見え方の異なる様々な人に対して、わかりやすいデザインとなっていることを示す「CUDマーク」を取得しています。

なるほど。今後この救急車は病院などに導入されていくのでしょうか。

飯野:実は現行の法律だと、救急車の車体の色は白でなければいけないと決められているため、公的な救急車両としてすぐに導入することは難しいです。そのためまずは、民間救急用の車両としての導入を目指しています。

左:一般的な救急車、右:青い救急車 

「負け戦に立ち向かっていく人が好き」
なぜ、アーティスト・山口 歴が協力したのか

なぜ現代アーティストの山口さんとコラボしたのでしょうか

飯野:赤と白の救急車が色弱者の方にとっては見えづらいということを聞いた後、山口さんの作品に出会った際にビビッときました。青が鮮烈だし、すごくパワーを感じたんですよね。山口さんは以前、DMMが制作していたアニメ「ブルーピリオド」でもコラボをされていたというご縁もあったため、「青い救急車」のデザインを相談させていただきました。

山口さんは、今までファッション関連のコラボは多くありましたが、立体物、しかも公的なものとのコラボはあまりなかったと思います。なぜ青い救急車の制作に協力しようと思ったのでしょうか。

山口:まず、飯野さんの人柄と熱意に惹かれました。最初に打ち合わせさせていただいたときに、多様性の時代に合わせた新しい救急車を作りたいと、真剣にお話していただきました。また、僕も色弱者の方にとって赤色は見づらいという話を聞いて驚いたんですよね。純粋に人助けというか、人や社会のためになるものを一緒に作れたらいいなと思って受けさせていただきました。

あと、僕は負け戦に立ち向かっていく人が好きなんですよ。寡占市場の消防・救急車業界に飛び込んで、より良いものを生み出しているという、心意気に感動したんです。

“自分の得意とするスタイルを捨てた”救急車デザインに込められた想い

そもそも、山口さんの作品は青色を使った作品が多いですよね。なぜ青色を使うのでしょうか。

山口:よく聞かれるのですが、なんて答えればいいか難しいんですよね。単純に小さい頃から本当に好きな色なんですよね。青は海や空、地球など根源的なものの色でもあり、「青い時代」とか「青春」などの言葉にも使われます。10年間日本に帰れなかったとき、アメリカから故郷を思い出すときに青みがかったイメージで思い出すことが多かったんです。そういう時期に絵画の四角いキャンバスという枠を飛び越えて、ブラシストロークがむき出しになったスタイルが生まれました。そこから青色にこだわるようになったし、国境や境界線を飛び越えて表現することをテーマにしています。

救急車のデザインというと、かなり制限があったのではないかと思います。デザインする上で苦労した点を教えてください。

山口:まず、今回「かっこいい」ものをつくることはやめようって思ったんですよね。今まで自分はかっこいいもの、今まで見たことがないものをテーマにして表現してきたのですが、人の生死がかかわるプロダクトにそれは必要なのか、すごく考えました。だから、今回自分が得意としているブラシストロークを使わずに表現しました。

デザインする上で一番優先したことってなんでしょうか。

山口:必然性ですね。救急車をデザインする上で本当に必要なことはなんだろうか、と常に問いかけていました。物事をシンプルにすることで、ようやく普遍的な感覚が大勢の人に伝わると考えています。そのため、余計なものを削ぎ落としながら、普遍的なもの、人類に共通するものを考えたときに、空や海、雲だなと思ったのでそれをコンセプトにしました。

救急車というと、子どもにとってヒーローみたいなものですよね。万人に受け入れられるのは難しいことですが、それを意識してデザインしました。夕焼けを見て「綺麗だな」と感動する気持ちなど、みんながどこかに抱えている感情に刺さったらいいなということを目的にしています。万人に受けるものなんてないんですけど、そのパラドックスと戦っているというか。そういう表現ができたらいいなと思っています。

固定概念や常識を疑え!違った目線で見る面白さ

今回の「青い救急車」の制作を通じて発信したいメッセージを教えてください。

山口:救急車は白と赤じゃないといけないっていう固定概念や常識を疑えってことを伝えたいです。身の回りにある常識とされているものをまず疑ってほしい。違った目線でみると、もっと世の中が面白くなると思うんですよね。そういうことを「青い救急車」を通して伝えたいです。

飯野:業界としては斬新なことをしてきたなと思っていますが、もっと広い視野で見てみたら、もっといろいろな人がいる。まだまだだ、と気付かされることが多いです。車だけの話にとどまらずに、いろんな方向から見ていいんだよってことを伝えたいし、それを許容できる社会であってほしい。
もう一つは、命を削って救急活動をしている人たちがいっぱいいるので、一緒に頑張りましょうと伝えたい。世の中には命を削って頑張っている人たちがいることを知ってほしいです。

最後にお二人の将来の展望を教えてください。

山口:やっぱり自分が納得できる作品を作り続けていきたいです。でも、年々それが難しくなってきていて。自分が作ったハードルが高ければ高いほど、次のハードルも高くなってしまって、簡単に飛び越えられなくなります。去年、大きい展示があって一段落したので、表現者としてどこに向かっていくかを考えている時期です。公共の美術館でも展示していきたいし、逆に美術館という枠を飛び出して自然の中で彫刻を展示したいという気持ちもあります。

飯野さんはいかがでしょうか。

飯野:僕の母親は34歳で亡くなりました。だから僕は34歳を人生の区切りとして生きてきて、早く起業して、消防車や救急車を作ってきました。ちょうど僕自身が34歳を迎え、転機を迎えています。救急車、消防車など人の命を助けるものを作ってきましたが、今後は地球規模で人の役に立つものを作りたいと考えています。「一度きりの人生、命を燃やせる仕事をしなさい」という祖母の教えに恥じないように、常に葛藤しながらモノづくりをしていきたいです。

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