特集ページ|https://store.tsite.jp/ginza/blog/art/32569-1424000322.html
梅津庸一(1982年山形県生まれ)は、2000年代初めより美術家として活動。絵画やドローイングのほか、近年は陶芸作品も手がけています。本展は梅津初の本格的な作品集『 ポリネーター』が4月13日(木)に発売されるのに伴い、出版記念展として開催。梅津による100点以上に及ぶ多種多様なユニークプリントを中心に展示いたします。版画という表現語彙を得た梅津の新しい展開にご期待ください。
- 本展に寄せて
今日、版画は芸術の一ジャンルとして知られているが、もともとは聖書をはじめとする書物の挿絵であり世界のあり方に変革をもたらした一大メディアだった。僕自身も20代の頃エルンスト・ヘッケルによるクラゲやヒトデ、有孔虫などが収められた『自然の芸術形態』に魅了され影響を受けた。また現在、日本において版画を考えるうえで「創作版画」と「教育版画運動」と昨今のアートマーケットで散見される現代美術作家による版画とでは意味合いや文脈が異なる。僕の今回の取り組みは現代アート界で活動する作家が版画工房で手際よくエディション作品を作るようなものではなく、先行世代のいわゆる「版画家」の仕事を強く意識しその精神を内面化することを目指した。
銅版画家の駒井哲郎は「私の芸術」(1970年)にて次のように語っている。
「もし多様な技法を用いても作品の世界は変わらないはずだと思うのは大きな間違いであって、物質を勝手気儘に扱おうとすると、物質によって手痛い復讐を受けるのであった。技法とはそう云うものなのである。」
版画の言説は技術や物質にまつわるものが圧倒的に多い。その点は陶芸と近いものがある。つまり版画も陶芸も技術や物質に規定されがちなジャンルである。僕は高い練度を要する版画家の仕事に短期間で肉薄するために必要なのは「ロマン」しかないと結論づけた。版画も陶芸も技巧とたいへんな労力を投入して作られるが最終的には鑑賞者に「味わい」や「叙情」を喚起させるものである。つまり論理的な動機づけを超えた熱情がなければ短期間で大量の版画を仕上げるのは不可能だし、そもそもそんな非合理的な試みに意義を見出すことは難しい。それにくわえて版画特有の網膜にとりつくような「味わい」を生み出すためには版画というメディウムを一時的であれ全面的に信頼し身を預けなければならない。そこで僕は「カワラボ!」での時間を「遅すぎた青春」と位置づけ、特別な時間の中で版画世界に没頭する契機とした。それは青春の再来を夢みる40歳の男の暗い私小説的な想像力にすぎないのかもしれない。しかし、思い返してみると僕は最初からそういう作家だった。これまでずっと政治的、美学的どちらの領域にも完全には属さない仕事を追い求めてきたつもりだ。ちなみにそれは普段からV系の音楽ばかり聴いていることとも無関係ではないだろう。
制作は版画の原理を「カワラボ!」の河原さん、平川さん、今泉さんから学びながら一発本番で進められた。刷り終えた版をシンナーでクリーニングする際のインクの汚れすらも紙で刷りとり「シンナー刷版画」として計上された。もはや失敗作や試し刷りなどというものはなく、この期間に生成されたものすべて出来は問わず作品と捉えることにした。作業は朝から晩まで続き時には深夜にまで及んだ。途中からは「カワラボ!」に泊まり込み生活と制作は地続きになっていった。「カワラボ!」のスタッフは刷師として僕の作った版をプレス機で刷ったり、次々と新しい版の準備をしてくれたりした。そこには厳密なルールはなく版画工房の基準を満たす職人の精度の高い仕事と僕の作家然としたラフな仕事が同時進行していた。銅版画やリトグラフのほかに巨大なモノタイプやあらかじめ僕が彩色した紙の上に刷ったもの、版画に過剰に手彩色を施したもはや「1点もの」のドローイングのようなものも作られた。また、作品集に掲載された過去作を銅板に写真製版したり、デジタルデータをプリントして手彩色が重ねられたりと、前近代的な技術とわりと最近の技術が「作家と工人」の関係性、もしくは友達同士のようなフランクなやりとりを通して複雑にまじり合い積み上がっていった。それは作品におけるオリジナルと複製の関係や、作者のアウラの有無をめぐる試行錯誤だった。言いかえれば作家における「固有性」とはなんなのか?また「つくる」とはいったいなんなのか?という素朴だが根本的な問いでもあった。
文芸的な感受性に根ざした版画の「味わい」の探求、多様性の名のもとに定義することが困難になってしまった現代美術というフレームの中でそもそも僕の取り組みは帰属する場所がないのかもしれないという不安、そしてアートマーケットと出版社の力学、さまざまな項が未整理のまま散らばった状態で本展は組織されていった。当初想定していた版画家然とした仕事ができたかと問われたらあやしいところだが、「カワラボ!」での「遅すぎた青春」はかけがえのない時間だった。
本展はまさに内なる自分の転写であると言えるだろう。制作を通して美術家を特徴づける主題や作風は自己模倣と紙一重であり、作家が作品制作を持続させる上で一種の鈍感さや不誠実さは必要なのかもしれないという気づきもあった。そして版画とは青春を複製する技術でもあるのだ。
梅津庸一
- トークイベント
日時|2023年4月8日(土)15:00~16:00
出演|梅津庸一、刈谷悠三(デザイナー)、岩渕貞哉(『美術手帖』編集長)
会場|銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM
定員|30名
参加費|無料
イベントの詳細・お申込みに関しての詳細は決定次第、特集ページにてご案内いたします。
特集ページ|https://store.tsite.jp/ginza/blog/art/32569-1424000322.html
- 特別限定版作品集について
https://oil.bijutsutecho.com/special/205
部数|50エディション
価格|70,000円(税抜、送料別)
内容|スペシャルエディションセット
版画1点(銅版画、リトグラフ、手彩色)+ 作品集
※作品集本体は特別限定版・一般販売分で共通のものになります。
※エディション作品のみの販売はありません。作品1点につき作品集が1冊付きます。
- 作品の販売について
特別限定版作品集以外の作品につきましては、銀座 蔦屋書店店頭においてのみ、4月1日(土)11時より販売いたします。
※作品はプレセールスの状況により展覧会会期開始前に販売が終了することがあります。
- アーティストプロフィール
美術家。1982年⼭形県⽣まれ。⽇本における近代美術絵画が⽣起する地点に関⼼を抱き、⽇本の美⼤予備校や芸⼤での教育に鋭い視線を投げかけた制作、活動を⾏う。主な展覧会に、個展:「未遂の花粉」(愛知県美術館、2017年)、「 梅津庸⼀展|ポリネーター」(ワタリウム美術館、2021年)、2⼈展:「6つの壺とボトルメールが浮かぶ部屋 梅津庸⼀ + 浜名⼀憲」(⾋居アネックス、2021年)、グループ展:「恋せよ⼄⼥!パープルーム⼤学と梅津庸⼀の構想画」(ワタリウム美術館、 2017年)、「百年の編み⼿たち―流動する⽇本の近現代美術―」(東京都現代美術館、2019年)、「平成美術:うたかたと⽡礫(デブリ)1989-2019」(京都市京セラ美術館、2021年)など。著書に『ラムから マトン』(アートダイバー、2015年)。『美術⼿帖』2020年12⽉号特集「絵画の⾒かた」監修。
- 書籍情報
梅津庸⼀作品集『ポリネーター』
著者:梅津庸⼀
発⾏:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
発売:美術出版社
定価:6,000 円+税
発売⽇:2023年4⽉13⽇(木)
仕様:184ページ、 A4 変形、上製本(スイス装)
ISBN:ISBN 978-4-568-10561-2 C3070
- 展覧会詳細
「遅すぎた青春、版画物語(転写、自己模倣、変奏曲)」
会期|2023年4月1日(土)〜4月19日(水)※最終日は18時閉場
会場|銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM(イベントスペース)
料金|無料
主催|銀座 蔦屋書店
協力|艸居、Kawara Printmaking Laboratory Inc.、安藤祐美、みそにこみおでん、シエニーチュアン、阿部宏史、美術出版社
お問い合わせ|03-3575-7755(営業時間内)/info.ginza@ccc.co.jp
※営業時間は店舗ウェブサイトをご確認ください。
※会期は変更になる場合もございます。
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- 銀座 蔦屋書店
本を介してアートと⽇本⽂化と暮らしをつなぎ、「アートのある暮らし」を提案します。
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- CCCアートラボ
CCCアートラボは、企画会社カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の中で「アートがある生活」の提案をする企画集団です。わたしたちは「アートがある生活」の提案を通じて、アートを身近にし、誰かの人生をより幸せにすること、より良い社会をつくることに貢献したいと考えています。これまで行ってきた、店舗企画やアートメディア、商品開発やイベントプロデュースなど、長年の実業経験を通して培った知見をもとに、わたしたちだからできるアプローチで企画提案をします。
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