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Sunday, July 10, 2022

地方局は地元アーティストに投資を!《九経調・調査マン手帳》 - 西日本新聞

bintangsef.blogspot.com

 九州経済調査協会(福岡市)は、年間約70に及ぶ多彩なテーマを調査研究する九州最大のシンクタンクです。研究スタッフが日々感じていることを軟らかな筆致で紹介するコラム「調査マン手帳」を、「西日本新聞me」と連携して配信していきます(随時掲載)。

【コラム#07 調査研究部研究員 清水隆哉さん】

 ここ数年、福岡から優秀なアーティストが次々と輩出されている。具体的な名前を今から挙げるが、皆さん、ご存じのグループなどはあるでしょうか。

 ラッパーだと、Rin音やクボタカイ、Skaaiなどは目が利く全国の音楽ファンにはおなじみだ。

 「ヒップホップが苦手」という中高年の音楽ファンにとって、NYAIは1990年代の「オルタナ」「グランジ」などのロックのジャンルを連想させ、親近感が湧くに違いない。

 個人的に一押しなのは、「Deep Sea Diving Club」。はやりのいわゆるシティ・ポップだが、ジャズやロックなど、さまざまな音楽的な知識を持つことが曲の端々から伝わってくる。ライブの完成度も高い。

Deep Sea Diving Club(Beacon LABEL 提供)

 アイドルだと、ばってん少女隊がリリースした「OiSa」は、祭り囃子(ばやし)のワンフレーズだけで組み立てた実験的なループミュージックで、アイドルファンのみならず、音楽ファンからも注目を集めた。

ばってん少女隊 (C)STARDUST PROMOTION,INC.

 作曲家では、90年代に活躍したポップグループ、インスタントシトロンのメンバーだった松尾宗能さんは、そのポップセンスが一部で高く評価されている。

   ◆    ◆

 これらのグループなどは、中規模な音楽フェスタだと大トリを務めることができるほどハイレベルだ。福岡の音楽シーンが東京の関係者からも注目されている状況だが、そのことが九州はもちろん、地元福岡でもほとんど知られていない。

 関係者に理由を聞くと、多くの人が「福岡のテレビに地元の音楽を紹介する番組がないから」という。

 たしかに、以前は地元のバンドを紹介する番組があり、テレビ局がコンテストを主催していた。しかし、今は自分の知る限り、福岡のテレビ局が制作している音楽番組はわずか(唯一残っていた番組は6月末に終了)、テレビの番組内で、地元のアーティストを紹介する機会は減っている。

 「今は、(動画投稿サイトの)ユーチューブや(動画投稿アプリの)TikTok(ティックトック)で宣伝できる。地上波は関係ないのでは」と思う人もいるかもしれない。ただ、ウェブは基本的に自分で情報を取りに行くメディア。広く一般の人にも認知を得るには、不特定多数に情報を届けるテレビへの露出は欠かせない。

 テレビ局の事情も分かる。厳しい経営の中、マイナーなアーティストのために放送時間と制作費を使って、果たして視聴率やスポンサーの確保がうまくいくかは未知数。ただ、地方局の存在意義の一つは、地域の文化や資源を発信することではないか。まさに音楽は、福岡にとって地域資源の一つといえるだろう。

 多くのアーティストを輩出しているだけではない。福岡市役所前広場の音楽イベントや糸島の音楽イベント「サンセットライブ」が、どれだけ福岡という都市のブランドに貢献していることか。音楽業界の関連事業者の集積も、同規模の都市と比較すると高い。

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 近年、全国の地方局は自主制作枠やネットとの連動を増やし、攻めの番組作りを模索している。その先駆けは、実は福岡のテレビ局だった。

 その経験と、地元のアーティストを応援する取り組みは相性がいいはず。何より、今の福岡の音楽シーンは、先行投資すると高確率でリターンが期待できる「優良物件」だろう。このタイミングで、彼らに乗らない手はない。

 大手芸能事務所の方が漏らした。「売れてない時に応援してくれるから、恩返しするんです。売れてから、応援されてもね…」

 新型コロナウイルスの影響がなお続き、アーティストたちも苦しんでいる今こそ、テレビ局は「地域資源」として彼らを応援してみてはどうだろうか。

(「九州経済調査月報」2022年7月号に掲載)

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 清水 隆哉(しみず・たかや) 福岡市出身。デジタル機器関連の雑誌やウェブ媒体の編集者を経て、2012年に九州経済調査協会に入った。関心分野はIT、コンテンツビジネス、メディアなど。人生の多感な時期を、古着屋やレコード屋が並ぶ90年代の「親不孝通り」で過ごす。

 九州経済調査協会(福岡市中央区)は1946(昭和21)年設立の民間の調査研究機関(シンクタンク)で、2013年4月から公益財団法人。戦後、博多港に引き揚げてきた満鉄や満鉄調査部出身の役職員が設立に携わった歴史もある。現在は九州・沖縄・山口を主なフィールドに経済、社会、産業動向、地域政策に関する調査研究を展開している。「九州経済調査月報」「九州経済白書」などの報告書を出し、国や自治体からの委託調査を行い、会員制ビジネス図書施設「BIZCOLI(ビズコリ)」も直営する。専属の研究スタッフは23人、会員は企業、自治体、大学など約600組織。

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