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Friday, March 11, 2022

“アイドルはこうでなきゃ”日本特有の思い込みが、韓国アーティストとの差を広げる結果に「固定観念はリセットすべき」 - ORICON NEWS

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ヒップホップグループEPIK HIGHのTABLOが綴った『BLONOTE』(世界文化社)

ヒップホップグループEPIK HIGHのTABLOが綴った『BLONOTE』(世界文化社)

 BTSのRMやSUGAをはじめ、韓国のトップアーティストの多くがリスペクトを公言しているヒップホップグループEPIK HIGH(エピックハイ)のリーダーTABLO(タブロ)。“言葉の魔術師”とも言われる彼のメッセージ集『BLONOTE』は韓国で大きな話題となり、2月には日本語版も発売された。解説を手がけた日本における韓国音楽カルチャーの第一人者・SAKIKO(鳥居咲子)氏に、勢いを増す韓国音楽業界の実情や日本との違い、また、韓国の音楽カルチャーに精通するからこそのこだわりで、現在、クリエイティブディレクターを務めているダンス&ボーカルユニットBE:FIRSTの戦略について聞いた。

TABLOは韓国トップアーティストに影響を与えた“言葉の魔術師”

━━解説を担当された『BLONOTE』(世界文化社)はBTSのリーダーのRMが公式Twitterで紹介したことでも大きな話題を呼びました。この本の著者で、“言葉の魔術師”と言われ、韓国の名だたるアーティストたちからもリスペクトされているタブロの言葉にはどんな魅力があるのでしょう。

SAKIKO歌詞にしても、『BLONOTE』に掲載されたメッセージにしても、すごく文学的で、読んでいるだけで情景が浮かぶのが一番の特徴です。あと、直接的な表現に感じられても実は隠喩が込められていることもとても多くて。例えば、ラップにはダブルミーニングといって、一つの言葉なんだけど、裏に同じ発音の違う意味の言葉をかけているというやり方があるんですが、彼はそれがすごく得意。どんな気持ちからこの言葉が出てきたのかなとか、この言葉にはどんな気持ちが込められているのかなとか、聞き手が丁寧に読み込みたくなるような言葉をいつも書かれています。

━━BTSのRMやSUGAはタブロの曲に出会い、歌手を志したと公言していますが、タブロの存在が今の韓国の音楽シーンに与えた影響は大きかったのですか?

SAKIKO日本では80年代にラップやブレイクダンスが広がりましたが、韓国は意外と遅くて90年代に入ってからなんです。タブロはその黎明期からヒップホップやラップを牽引してきた存在で、当時の韓国の中・高校生たちにこんな音楽があるんだということを伝えた一人でした。さらに、アンダーグラウンドの人たちがゴリゴリのヒップホップを追求している中で、大衆に向けて聴きやすいメロディーや共感されやすい歌詞を作り、テレビのバラエティにも出演するなどしたことも特徴的で、韓国にラップの存在やヒップホップの面白さを広く知れ渡らせるきっかけにもなりました。その一方で、音楽性の高さやラップをやっている人たちからしても敵わないというくらい素晴らしい歌詞で、マニアの人たちからもめちゃくちゃリスペクトされて、デビューから20年経った今でも、その立ち位置を変わらずにキープされています。

世界のトレンドを上手く取り入れるK-POP「クオリティが底上げされていくのが面白い」

━━今やK-POPは世界中で人気を得ていますが、日本でもBTSの『Dynamite』が大ヒットした2020年以降、K-POPの流入がさらに顕著になったように思います。SAKIKOさんはK-POPに精通するお立場から、その状況をどのように見ていましたか?

SAKIKO日本におけるK-POPブームはBTS以前にもけっこうあって、まず、2010年くらいの少女時代やKARAの人気は本当にすごかったんですね。ドラマ『冬のソナタ』をきっかけに起こった2002年の第1次韓流ブームに続く第2次韓流ブームと言われるほどで。その後、2018年にサードウエーブが起きて、TWICEやSEVENTEENが人気を博して、BTSも日本のK-POPファンたちの間で最初に人気が出たのはその頃でした。

 私の専門分野である韓国のR&Bやヒップホップもこの頃、日本に入って来るようになって、来日ライブも増えて、人気となりました。ですから、2020年のBTSの『Dynamite』のヒットというのは、それまでK-POPに関心がなかった人や、上の世代の方たちにK-POPの存在を知らしめるきっかけになったといえるのではないかと思います。とはいっても、最近のBTSはサウンドをアメリカに寄せていたり、歌詞も全部英語だったり、もはやK-POPの枠を超えているような気がするので、BTSの人気がイコール、日本でK-POPが盛り上がっているということにはなっていないのではないかとも思うのですが。その意味でいうと、虹プロジェクトのヒットでJYPエンターテインメントの存在が知れ渡ったことのほうが大きかったかもしれません。

━━では、ズバリ、K-POPにはどのような特徴があるのでしょう?

SAKIKO日本ではK-POPというとアイドルグループをイメージする方が多いかなと思うのですが、韓国の音楽業界には、ほかにも、ロックバンドに、ラッパーに、ソロシンガーにといろいろなジャンルや形態があって、その一番の特徴は、全体的に世界のトレンドを取り入れるのがすごくうまいことです。日本は、曲の構成からミックスの仕方や音のバランスのとり方、演奏の仕方、歌い方など、一つ一つに独自のJ-POPらしさが明確にありますが、韓国では、純粋に韓国らしさだけを出しているのはトロットという演歌くらいで、それ以外の大衆音楽は、欧米や世界のトレンドをうまく取り入れつつ、アジアらしいキレイなメロディーラインや、韓国らしい要素を足したミュージックビデオなど、韓国の良い部分も取り入れて、そこに各々の独自のスタイルを加味しているのが特徴です。

━━SAKIKOさんはK-POPのどこに一番惹かれたのですか?

SAKIKO世界と遜色ないくらいの高いクオリティと、洋楽とは違うアジアっぽさを感じたところですね。とにかく、歌もラップもダンスもミュージックビデオの作り込み方も、ジャケットのデザイン一つにもこだわるファッション性も、いろいろなところに細かい神経が行き届いていて。これは、K-POP特有の「カムバック」というシステムによるところも大きいと思います。日本で「カムバック」というと、長く休止していた人が久しぶりに活動を再開する印象を抱くと思うんですけど、韓国では、新曲を出して、その曲の活動が終わったら1回活動終了となって、次の曲を出すときは数か月後でも「カムバック」と言うんです。つまり、その曲の活動中は、その曲に合わせたイメージを確立して、半端ないほどとことん練習して、完成度を最大限高めて世に出るということを1曲ごとに追求しているんです。

━━1曲ごとにかけるエネルギーが半端ないんですね。

SAKIKO韓国の音楽業界では、アイドルやアーティストが次々と誕生しています。競争率が高いので、クオリティを高めないと売れないという理由もありますが、それによってどんどんK-POPのクオリティが底上げされていくのも見ていて面白いところです。例えば、新しい楽曲やダンスを取り入れた新グループが出てきて、すごいねと話題になると、負けじと次のグループが、違った新しいアイデアで勝負してくるというふうにどんどん発展していくんです。アイドルグループはこうでなくちゃいけないという縛りもなく、どんなジャンルであれ、形態であれ、固定観念にとらわれず、日本に比べて高い自由度で、冒険心をもって、新しいことや意外なことをどんどんやって、いろいろなことを見せてくれるのもK-POPの魅力だと思います。

J-POP界のアイドルに対する固定観念をリセットしたい

━━SAKIKOさんは現在、ラッパーのSKY-HIさんが立ち上げた「BMSG」にて、昨年デビューを果たしたボーイズグループのBE:FIRSTのクリエイティブディレクターを務められています。そこには今お話しいただいたようなK-POPから得た様々なアイデアや戦略が活かされているのでしょうか?

SAKIKO私は韓国のヒップホップやR&Bを専門的にやってきたので、クリエイティブに対しての向き合い方はそこからも影響を受けていますね。それをもとに、日本のボーイズグループに対する思い込みみたいなものを1回リセットして、BE:FIRSTだったらどう見せたいか、何を世の中に伝えたいのかを一番のこだわりポイントにしています。

━━具体的にはどんなことにこだわられているのですか?

SAKIKO例えば、楽曲のアートワークにはCDのジャケットバージョンと配信用があるのですが、メインで使う配信用のアートワークには、本人たちの写真を使っていません。ボーイズグループは顔写真があるのが当たり前という思い込みを取っ払いたかったんです。それに、曲をダウンロードしたり、ストリーミングする際に、ジャケットのアート性が高くてカッコイイとより幅広い層に興味を持ってもらいやすくなりますし、単純にユーザーの気分も上がる。衣装やヘアメイクやMVに関しても同じです。衣装は全員お揃いのものを着るとか、日本のボーイズグループはナチュラルメイクで、韓国に寄せるなら化粧濃いめとか、そういう思い込みをすべてリセットして、曲ごとにその曲に合ったこだわりを出すことを意識しています。

━━K-POPのように、自由な発想で新しいことにチャレンジされているんですね。

SAKIKO新しさは大事だと思っています。“誰それ以降、こうなったよね”って言い方がされて、文化の起点にもなり得ます。例えば、「BIGBANG以降、アイドルってこういうふうになったよね」とか「BTS以降、K-POPのイメージが変わったよね」とか。BE:FIRSTにおいても、そんな存在を目指していきたいなと。

━━アイドルの固定観念をくつがえしたい?

SAKIKOよく「BE:FIRSTはアイドルですか、アーティストですか?」って聞かれるんですけど、分けることって意味がないと思うんです。BMSGの代表のSKY-HIも、アイドルでありラッパーで、どちらも彼そのものです。アイドルはこうではなければいけないとか、アーティストはこうでなければいけないっていう縛りや固定観念が薄く、その人らしさでやれて自由度が高いのが韓国の音楽業界の良い部分です。日本では“こうでなきゃいけない”が強いと思いますが、その概念に私たちは縛られたくないと常に思っています。「BE:FIRST以降、アイドルとアーティストの境がなくなったよね」って言われる日が来ることが夢ですね。私は韓国のR&Bやヒップホップに惹かれて、タブロさんにも大きな影響を受けて、いまこの立ち位置にいます。そしてSKY-HIが掲げる夢や理念に強く共感しているので、それらを実現するために一緒に走り続けています。何年かかるか分からないですが、着実に日本の音楽業界を変えることができればと思い動いています。

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