2021年12月29日20時31分
【ロンドン時事】新型コロナウイルス禍で文化芸術活動に影響が及ぶ中、日本や欧州に住む邦人アーティストが有志ネットワークをつくり、美術愛好家らの支援を得て環境改善に奮闘している。中心人物の一人でロンドン在住のアーティスト、川久保ジョイさん(42)は関係者間の交流や日本政府への働き掛けを重ねることで「少しずつだが手応えを感じている」と話した。
展覧会の中止などでフリーのアーティストの収入は減り、創作活動は滞った。アルバイトなど生活を支えるための副業を失ったことで打撃は増した。
「自分たちで必要性を訴えないと伝わらない」。情報共有や公的支援の充実などを目指して2020年5月、「art for all」が発足した。中心メンバーは日本や英国、フランスなどにいるアーティスト約30人で、写真や映像、空間全体を作品にするインスタレーションなど現代美術の担い手が多い。
問題は多岐にわたる。一つは契約書の不在だ。日本では画廊などから創作と展示を依頼されても、契約書がないことがほとんど。展示中止の場合の損失負担は不明確で、「創っていた作品、要した経費をどうするのかは企画運営責任者次第」(川久保さん)なのが実情という。契約書がないために、仕事を失っても公的な給付金を受けるのが難しいケースがある。
art for allは報酬や契約条件の指針づくりを訴えてきた。文化庁は今年9月から有識者による検討を行っており、22年3月には指針をまとめる方針だ。
低賃金や報酬の未払い、依頼者によるハラスメント。以前からアーティストを悩ませてきたことが、コロナをきっかけに労働問題としてより強く認識されるようになった。art for allはこれらの改善に向け、オンラインのセミナーの開催や実態調査、政府機関への要請など活動の幅を広げる考えだ。
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