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Sunday, June 27, 2021

アーティストの印税に“投資”する:日本でも始まる「ロイヤリティー取引」が音楽業界にもたらすもの - WIRED.jp

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この10年ほどで、アーティストの収入源を増やすべくさまざまな手法やプラットフォームが登場してきた。Patreonのようなクラウドファンディングサイトから動画配信サーヴィスのサブスクリプション機能、SNSの投げ銭機能、デジタル資産に“所有権”を与えるノンファンジブル・トークン(NFT)……。そして、この数年で欧米を中心に盛んになっているのが音楽ロイヤリティー(印税)の取引である。

オルタナティヴな投資先としての印税

音楽ロイヤリティーの取引で売買されるのは、いわば「楽曲の印税を受け取る権利」だ。アーティストやパブリッシャーがこの権利を売りに出し、購入者はその後その楽曲が再生されたり、演奏されたり、複製されたりする際に発生する印税の配当分を受けとれるという仕組みだ。

ストリーミングサーヴィスの普及でひとつの楽曲が長く聴かれるようになり、そこで発生する印税に投資する動きも加速した。欧米には、ロイヤリティー投資を専門とするファンドや、ロイヤリティーを取引できるプラットフォームも複数登場している。

例えば、11年に創業した米国のRoyalty Exchangeは、楽曲の権利を売りたいアーティストやパブリッシャーと投資家をつなぐオークション形式の取引所を運営している。これまで、Jay-Zリアーナの楽曲の印税を受け取る権利や、「スタートレック」シリーズなどの楽曲の再使用料の一部を受け取れる権利などが取引されてきた。

なお、こうしたロイヤリティー投資で取引される対象は、デビュー直後のアーティストのカタログ(楽曲集)やリリース直後の楽曲ではなく、すでに実績のあるアーティストやリリースから時間が経った曲であることが一般的だ。今後どのくらいの印税を見込めるかが、過去のデータからある程度は予測できるからである。

「ロイヤリティー投資は一般市場の景気とは無関係の動きをすることから、日本でもオルタナティヴ投資の新たな選択肢のひとつとして今後注目されると推測しています」。そう語るのは、ロイヤリティバンクの最高執行責任者(COO)を務める坂上晃一だ。

音楽印税取引プラットフォームを運営するルクセンブルク発のスタートアップ、ANote Musicと21年4月に業務提携を結んだロイヤリティバンクは、ANote Musicのプラットフォームを日本語化し、日本のアーティストや投資家も利用できるよう準備を進めている。最高経営責任者(CEO)である佐々木隆一は、音楽業界のデジタル化が始まった黎明期から数十年にわたりデジタル配信の著作権やコンテンツ流通の課題に最前線で取り組んできた人物で、現在は著作権情報集中処理機構(CDC)の会長も務めている。

アーティストの評価に透明性を

アーティストにとってロイヤリティー取引の魅力は、一度にまとまった資金を調達できることだろう。新曲のレコーディングやアルバムの制作・出版、プロモーションやツアーの実施など、アーティストの活動には準備資金が必要になる一方、ギャランティーが入るまでには時間がかかってしまう。

「いかにスタート時に資金を調達するかが、多くのアーティストにとって悩みの種となっています。銀行からの借入は条件が厳しく、一方でプロダクションからのアドヴァンス(前払金)はその後の活動に制限が課されるケースがほとんどです」と、坂上は言う。

またプロダクションやレコード会社との交渉ではアーティストの立場が弱いことも多く、交渉も非公開であることが多い。このためアーティストや楽曲の価値に見合わない不利な取引になることも少なくないのだと、ANote Musicの創業者でCEOのマルツィオ・スケーナは言う。「ANote Musicは、個人投資家や音楽愛好家に市場を開放することで、すべてのプロセスをより透明で公正なものにすることを目指しています」

アーティストがANote Musicにカタログを“上場”する場合、まずはANote Musicの専門家チームがそのアーティストの過去の印税収入をもとに将来の収入の見通しを試算し、評価額を提案する。提案を受けたアーティストはその評価額をもとに基準価格を決め、次に投資家たちがオークション形式で入札していく。ANote Musicのオークションは期間と口数、最低価格が決まっており、オファーが高額な順に購入権利を得るが、販売価格は購入者中の最低オファー価格となる仕組みだ(ただし日本において当面は定額販売でスタートするという)。

クラウドファンディングのように、アーティスト側が何かしらのリターンなどを用意する必要もない。「カタログの公正な市場価値を売り手と買い手の双方が納得して決められ、一方的な取引になることを防げます。プロセス全体の透明性が高まるのです」とスケーナは説明する。

見通しの試算を確実なものにするため、同社のプラットフォームで扱うカタログは3年以上の収入があるものに限られており、上場しているカタログのほとんどは年間10,000ユーロ(約132万円)の印税収入があるという(ただし、ANote Musicでは知名度の低いアーティストにもサーヴィスを提供する方法を複数考えているとも説明している)。また、ANote Musicで販売できるのは所有する権利の49%までだ。

今後日本のアーティストが参入する場合も、中堅からヴェテランのアーティストが多いのではないかと坂上は考えている。「アーティスト個人のみならず、楽曲の権利を管理する音楽出版社にとっても、資産運用の手段だけでなく、過去作品の掘り起こし(価値の再評価)のきっかけにもなると考えています」

ファンからの投資も

一方で、投資家にとってロイヤリティー取引は、自分のポートフォリオに多様性をもたせる手段になる。前述したように、印税は従来の金融市場と連動しない傾向にあるゆえ、経済状況や金融市場の動向の影響を受けにくいのだ(もちろん投資である以上、元本割れのリスクはある)。

また、ANote Musicではロイヤリティーを受ける権利を小口化しており、例えば欧州では1口あたり6ユーロ(約800円)から購入できる。それゆえ、ファンが好きなアーティストを応援する目的で印税の権利を買うという使い方も考えられるだろう。「世界中のほとんどの人が、何らかのかたちで音楽と感情的なつながりをもっていることを忘れてはなりません」と、スケーナは語る。

このつながりは、何も音楽特有のものではない。ロイヤリティバンクでは今後、日本独自のサーヴィスとして漫画や小説、アニメや写真などの印税の取引も扱う予定だ。

アーティストやクリエイターの過去の作品に投資することで、その人の今後の活動を支えるロイヤリティー投資。日本のファンやアーティストがどのように活用していくのか期待したい。

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