Pages

Sunday, February 28, 2021

3.11 とアーティスト:10 年目の想像 - インターネットミュージアム

bintangsef.blogspot.com

3月で東日本大震災から10年。震災の年に生まれた子どもは小学4年生になり、未曾有の大災害も過去になりつつあります。

10年という時間を踏まえながら、震災とその影響を芸術の視点で問い直す展覧会が、水戸芸術館 現代美術ギャラリーで開催中です。


水戸芸術館の会場入口

震災では水戸芸術館も被災し、パイプオルガンの一部が損傷するなど、大きな被害を受けました。

同館では震災翌年の2012年に展覧会「3.11とアーティスト:進行形の記録」を開催。24組のアーティストが行ったさまざまな活動を、芸術であるか否かを問わず紹介しました。


エントランスホールのパイプオルガン、震災ではパイプ5本が落下しました。

今回は2012年の展覧会の続編ともいえる企画で、7組のアーティストが作品を出展。会場の順路に沿ってご紹介していきましょう。

冒頭と会場の中盤で展示されているのが、小森はるか+瀬尾夏美。震災時に大学院生だったふたりは、ボランティアで被災地を訪れ、被害が大きかった陸前高田市近くで暮らしながら、変わっていく風景を文章や絵画、映像で表現しています。

もとの街の上に新たな高台を造成している陸前高田を「二重のまち」と表す瀬尾。ここに震災には距離がある4者を招き入れ、地元の人々の話を聴いた上で語り直しを試みました。


小森はるか+瀬尾夏美

続いて、高嶺格。原発事故の後、目に見えない放射性物質は私たちに不安を募らせ、不確かな情報が行き交いました。

作品《ジャパン・シンドローム》は、原発事故を受けて店舗の人々と交わした対話を舞台上で再現したものです。言葉を選ぶように不安を口にする人と、戸惑いながら答える人の姿が印象的です。


高嶺格

加茂昂は絵画4点を展示。福島県双葉郡で、帰還困難区域とそうでない区域を隔てる境界線がモチーフです。

原発事故で立ち入りを制限するために設けられた、帰還困難区域。両者の間は、風は通り抜けますし動物も行き来しますが、人間だけが通れません。制作にあたり、加茂は富岡町に実際に住んでみた事で、時間の変化を描く事ができたといいます。


加茂昂

最も印象に残ったのが、藤井光の映像作品です。水戸市の小学校に通う子どもたちが協力し、差別する側とされる側の双方を体験。生徒を居住地で分類し、一方のエリアの生徒は優れているので給食がお代わりできるなど、理不尽な差別が行われるという物語です。

これは、1968年のキング牧師暗殺後に、米国の教師ジェーン・エリオットが実際に行った伝説的な授業を、3.11版に書き換えたものです。

本展が準備されていた2020年も、コロナによる差別や、Black Lives Matter運動など、構造的な差別は収まる気配がありません。若い先生の問いに対し、差別的な答えを真っすぐに発する子どもたち。彼/彼女らが演じている事を忘れ、言いようのない悲しみを覚えます。


藤井光

続いて、佐竹真紀子。当時10代の学生だった佐竹は、2013年に仙台沿岸部を震災後に初めて訪れました。

江戸時代の図画《奥州名所図会 深沼》から、絵が時を超えて歴史を伝える事ができるメディアであることを確信した佐竹は、独自の手法で絵画を制作。漆芸の彫漆のように、アクリル絵の具を塗り重ねて彫って色を出す事で、土地を歩いた風景と物語を表現します。


佐竹真紀子

ニシコはオランダ在住。震災の津波によって破損した日用品を収集し、自ら修復する《地震を直すプロジェクト》を実施してきました。

修繕された被災物は、海を超えてオランダへ。本展では3つのテーブルに、それぞれのオブジェクト(取り皿、ワイシャツ、魚皿)を展示。傍らに置かれた冊子には、オブジェクトの「里親」になったオランダの人々が、それぞれの預かったオブジェクトを巡り、家族や友人と交わした会話が掲載されています。

会話からは、震災から遠く離れたオランダでの人々が、ニシコが直したオブジェクトを前にして考えたさまざまな想いを読み取る事ができます。


ニシコ

最後の「Don’t Follow the Wind」は、2015年から帰還困難区域で行われている12組のアーティストによる展覧会です。当然ながら、規制が解除されるまで実際の展覧会を観覧する事は不可能です。

本展では現地における出品作品の一部や、関連作品を展示。国立公園などにある「ビジターセンター」が現地を訪れる前に理解するための施設であるなら、現地に行く事ができない今回の展示は「ノンビジターセンター」という位置付けです。


Don’t Follow the Wind

原発の安全神話、防潮堤の過信、根拠なき風評被害と、震災後には私たちの想像力の欠如が浮き彫りになりました。科学を軽視し、目先の事にとらわれる。現在のコロナ禍において、私たちは同じ過ちを犯していないでしょうか。

本展の主題は「想像力の喚起」です。ここにあるものをきっかけにして、無いものに想いを馳せる。想像力を鍛えるのは、アートが最も得意とする分野です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年2月19日 ]

Let's block ads! (Why?)


からの記事と詳細 ( 3.11 とアーティスト:10 年目の想像 - インターネットミュージアム )
https://ift.tt/3bM3RvE

No comments:

Post a Comment