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Wednesday, June 24, 2020

写真家ヴォルフガング・ティルマンスが語る、「アーティストの責任」とパンデミック - WIRED.jp

新型コロナウイルスのパンデミックによって、大きな打撃を受けているアートシーン。次がどうなるか予測もつかない未曾有の危機のなかで、いち早く自らの手で世界中のアートスペースを支援するプロジェクトを打ち出したのが、ベルリンに拠点を置くアーティスト、ヴォルフガング・ティルマンスだ。

彼が支援として始めたのは、ポスターを使ったベネフィットプロジェクト「2020Solidarity」。世界各国50人のアーティストが手掛けたポスターを、寄付を必要とするアート関連団体に無償で提供するものだ。各団体はそれを1枚50ユーロ(6,000円)で販売し、その収益を活動費に充てられる仕組みになっている。日本でも9つの団体(amalaASAKUSAClinicIACKPOSTtorch presstwelvebooksUtrechtダイトカイ)が参加しており、6月30日まで各団体のサイトを通じてポスターを購入可能だ。

これまでも、民主主義、国際理解、LGBTの権利推進など、アートを通じて社会と向き合い、問いを投げかけてきたティルマンス。彼は今回何を見据えて「2020Solidarity」を始めたのか。そしてアーティストたちは、このような危機に際して何をなすべきなのか。また彼がパンデミックのなかで感じた世界の変化とは──。外出制限が緩和された初夏のベルリンで、ティルマンスに訊いた。

ヴォルフガング・ティルマンス|WOLFGANG TILLMANS
1968年レムシャイト(ドイツ)生まれ。現在ベルリンとロンドンを拠点とする。80年代後半より写真を使った作品を発表するとともに「i-D」などの雑誌メディアに寄稿。93年ケルンの画廊で初の本格的な個展を開催して以降、その特徴的なイメージや展示方法が注目され、世界各地の画廊で数多くの個展を開く。2000年にターナー賞を受賞。15年ハッセルブラッド国際写真賞受賞。tillmans.co.uk PHOTOGRAPH BY DANIEL BUCHHOLZ

台湾とベルリンで感じた意識の違い

──現在ベルリンとロンドンを拠点に活動されていますが、3月にパンデミックが宣言されたころはどこにいましたか?

3月1日に台湾からベルリンに戻ってきました。高雄市で開催された、イングリッシュナショナルオペラによる「戦争レクイエム」の舞台デザインを担当していたので、その上演で8日間台湾にいたのです。世界は感染拡大の真っただ中で、感染者数が比較的少なかった台湾でもあらゆる場所であらゆる人がマスクを着用していました。バーやレストランなどの店舗は営業していましたが、ドイツのように新型コロナウイルスを軽視した発言をする人はいませんでした。「わたしたちはSARSも経験したし、そのうえでこういう対策をとっている」という共通理解があったと思います。

──欧米では新型コロナウイルスへの対策が違ったということですか?

ここでは、マスクの着用は各個人が何を信じているのかを表現するものとして扱われていました。その違いに、非常に驚かされましたね。そもそも欧米諸国にとって、これまでのパンデミックは遠い国のことでした。鳥インフルエンザはアジアのことで、エボラ出血熱はアフリカのこと。ここでは誰もそんなこと誰も気にしない、とね。

今回の感染拡大も最初はそう捉えられていたので、国内で感染が始まったころにはもう遅かったんです。慌ててマスクを手に入れようにも、もう法外な値段のものしかなかった。それから2カ月半以上の時が過ぎ、マスクが簡単に手に入るようになったいまも、マスクの着用はオプションであるように感じます。

米国ではどの政党を指示しているかも、マスクの着用にかかわってくるようです。右派の共和党支持者はマスクをつけない人が多く、民主党はマスクをつける人が多い。そんなふうになるなんて、3月の段階ではまったく想像もつきませんでした。

──欧米の人は、これまでの習慣を簡単には変えられないのかもしれません。

今回予期せずヨーロッパにもウイルスが到来し、数万人の人命を優先するためにヨーロッパ全土であらゆる公共生活がストップすることになりました。これまで地中海で何万人という人が亡くなっても、マラリアでひどい数の人が毎年亡くなっていても、欧米は関係ないという顔をしていたのに。

優先順位が変わったことが、文化的に新しいことだなと興味深く思っています。これまでは、何があっても自分たちの生活が続いていくことが重要だったのにね。

──シャットダウンの間は、どのように過ごしていましたか?

とても慎重に答えなければならない質問ですね。社会的状況が異なる国々で次々とシャットダウンが起こり、それに伴い各地でいろいろな変化や面倒ごとが起きています。その人が社会的にどういう立場にあるかでもかなり違いがあり、ホームオフィスで快適に働ける人もいれば、仕事で外に出なければならない人もいます。シャットダウンの影響は、各人の立場も露見させますよね。無邪気に「こういう時間を楽しんだ。何もかもが新しくて、いつもと違っていて、本質を見直したよ」とは答えられません。

何をしていたかという質問ですが、そうですね……。わたし自身、とても特異な状況だと感じました。なので、この特別な状況をある程度楽しんでみよう、しっかり五感で捉えてみようと思ったんです。ロックダウンの異常な静けさに動揺もしましたが、同時に不安でいることは何の助けにもならないと思っていました。動揺と落ち着きの両方を感じながら、自分の写真を見る時間をとり、同じ通りにあるパートナーの音楽スタジオで音楽をつくりました。あるいは、ベルリンに厳格なロックダウンがないという状況を利用して、そこらじゅうを歩き回って春の始まりを感じたりもしていましたね。

「ポスター」という支援のかたち

──コロナ禍の影響を受けているアートスペースを支援するために始めた「2020Solidarity」プロジェクトについて教えてください。もともとどのようなきっかけで、このプロジェクトを始められたのでしょうか。

新型コロナウイルスが、民間の文化施設やクラブ、国の支援を受けられない音楽関係の人たちに破滅的な影響を与えることがわかったとき、自分が負っている責任を果たさなくてはと感じたんです。

それからわずか数日で、「2020Solidarity」のアイデアが浮かびました。アーティストが1人1枚ポスターをつくり、そのポスターを数多くの施設が寄付を集めるために使う。ポスターは一律50ユーロと安価に抑え、多くの人に入手してもらいやすいようにと考えました。

今回のプロジェクトには、ギャラリーなどの文化施設だけでなく、ベルリンの「Griessmuehle」、ロンドンの「Cafe OTO」、ポーランドの「Pogłos」といったクラブや、「サンフランシス・クイア・ナイトライフ基金」などの団体も参加しています。香港でも17のインディペンデント・アート・スペースアテネでも8つの施設が結束して参加しているんです。「2020Solidarity」によって、施設や団体同士の絆が深まったり、新たなムーヴメントにつながったりしてくれればと思っています。このプロジェクトはまだまだポテンシャルがあると思うので、今年は必要な限り続けていくつもりです。

──「2020Solidarity」に参加している約50名のアーティストは、どのようにして集まったのでしょうか?

わたしが全員にメールを書きました。友人や知人もいましたが、展覧会を見て気になっていた作家に声をかけたりもしています。国際的に有名なジェフ・クーンズのような人もいれば、まだベルリンでしか知られていないような人もいて、面白い顔ぶれになったのではないかと思います。描き下ろしもあれば、いまこのためにと彼らが自分のスタジオで選んだ作品もあり、どれも非常に特別な作品です。開始から2カ月半ほどで、約33万ユーロ(約3,941万円)の寄付が集まっています。

──あなたは過去のプロジェクトでも「ポスター」という手法をよく使われていますが、何かあなたにとって特別な媒体でもあるのでしょうか。

紙に印刷されたものに対する信頼感はあります。ポスターを印刷して貼れば、たいていは次の日も、1週間後も目に触れますよね。でもSNSの投稿は、1時間もすればほかの投稿に埋もれて見られなくなってしまう。

とはいえ、紙であることにこだわっているわけではありません。よく、オンラインやデジタルに対するアナログや物理的なモノというふうに両者は対立させて語られますが、そこまでの違いは感じていないんです。例えばInstagramに流れてくる画像も、小さなポスターのようなものです。同じモチーフが広められるということに関しては、対立するものではないし、違いもないと思います。

──コロナ禍で、オンラインの可能性を発見されたということはありますか?

以前は、アートを広めるためにネットを使うなんて絶対あり得ない!と言っていた人たちが、今回のことでオンラインのよさを発見していますね。もちろん、実際にギャラリーやコンサートに足を運ぶことは肉体的な体験であり、オンラインと同等には語れません。とはいえ、オンラインに「モニターの画面より先にいけない」という大きな制限があるというのは、逆に言えば文章を読んだり、作品を見たりすることに集中できるということでもあります。例えば、今年オンライン開催されたアートバーゼルのようなフェアでもそうですね。

ティルマンスが主催する財団「Between Bridges」の展示スペース。PHOTOGRAPH BY HANS-GEORG GAUL

アートが社会を前進させている

──このプロジェクトを率いている「Between Bridges」は、あなたが2006年にロンドンで始めた非営利団体ですが、どのようなきっかけで始めたのでしょうか。もともとは非営利の展示スペースとして、いまは財団として運営されていますよね。

まずは、自由に研究や実験ができる楽しさがあるからですね。また、ほかの作家のアートへの愛も理由のひとつです。わたしはアートが自分にどのような作用を及ぼすかを観察していますが、これはほかの人も行なっている行為です。つまり、そこからコミュニケーションが生まれるわけです。

また、肩書きを取り払ったひとりの人間として、あるいは単にドイツにいる8,000万人、世界にいる77億人のなかのひとりとして、自分自身を見つめてみたいとも思いました。人間は誰しも、巨大な関係性のなかで生きる政治的な人間なので。

──「政治的な人間である」とは、どういうことでしょうか?

「あなたは、どんな世界を生きたいのか?」という問いをもつということです。例えば、わたしは若いころから、皆で共に生きる世界をつくること、政治や政治に興味をもつことの重要性を大きく感じていました。

アートは直接的に、社会的、政治的である必要はありません。例えば、花が美しくて好きとか、この音楽が気に入ったとかでもいいのです。その一方で、アートは常に、アーティストが世界をどう見ているか、どのように他人を見ているのかということについて、伝えるものでもあります。

ここ100年の社会の発展を考えてみてください。すべての動きがアートに伴走されています。それどころか、アートが社会を前進させている。プロテストソングやファッションのステートメント、アーティストの絵もそうでしょう。長くなりましたが、これがわたしが「Between Bridges」を始めようと思った理由と言えるかもしれません。

Between Bridgesが2019年6月に開催した、ベルリン在住のアーティスト、マシュー・ビリングスと米国人アーティスト、アマンダ・ワシレウスキによるエキシビジョン「Telecommunication」より。作品はビリングスのヴィデオコラージュ「Not Not」。PHOTOGRAPH BY DAN IMP

アーティストには、声がある

──Between Bridgesも「政治的なプロジェクト」なのでしょうか?

Between Bridgesの展示スペースでは、政治的なものに限らず、何らかのかたちで社会に正面から取り組んでいる作品を展示しています。Between Bridgesは2014年にベルリンに拠点を移し、2018年に財団のかたちにしたのですが、これは財団にすればもっとほかのプロジェクトを企画したり、アーティストの支援をしたりできると思ったからです。

ここ4年間は、政治的にもアクティヴに活動しています。例えば、ブレグジットに反対するキャンペーンや、連邦議会選挙と欧州議会選挙への投票を促すキャンペーンなどを行なってきました。

──先ほど「2020Solidarity」を始められたきっかけを伺ったとき、「自分が負っている責任を果たしたい」とおっしゃっていましたが、アーティストが負っている責任とは何だと思われますか?

わたしたち人間は、誰もがお互いに対する責任を負える存在であり、負うことを許された存在であり、負うべき存在でもあります。アーティストだからといって、ほかの人より多く何かをしなければならないということではないですし、アクティヴィストである必要もありません。ただ、われわれアーティストには表現する言葉や声があり、メディアをもっているのです。それを使わない手はありません。

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