PROFILE: 松野仁美
PROFILE: (まつの・ひとみ)兵庫県西宮市生まれ。ルトーア東亜美容専門学校卒業後、大阪でのヘアサロン勤務を経て上京し、MASAYUKI氏に師事。13年に独立し、ファッション誌や広告、ミュージックビデオ制作などに携わる。19年より本格的にヘッドピース制作を開始。21年に渡韓し、約1年間エンターテイメント業界を中心に活動する。22年に帰国し、ヘアメイクアップアーティスト、ヘッドピースクリエイターとして活躍する一方、3Dプリントを使ったアートピース制作を行う Instagram:@matsuno71 PHOTOS:RIE AMANO
美容師としてキャリアをスタートし、ヘアメイクアーティストのほかヘッドピースクリエイターとしても活動の場を広げる松野仁美さんは、最近は3Dプリンターを活用したアートピース制作にも力を入れる。先日は、カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)初のフレグランス「コズミック(COSMIC)」のイメージビジュアルにヘッドピースとリングが採用され、国内外から注目を集めた。内に秘めたクリエイティブ魂を解き放つかのように活動の場を広げるその原動力は何か、どのようにしてチャンスを掴んだか、制作現場であるアトリエで聞いた。
WWD:まずは、キャリアのスタートと経歴から教えてください
松野仁美(以下、松野):中学生の時からヘアメイクアップアーティストになりたいと思っていました。もともとファッションに興味があり、その流れでヘアメイクに興味を持ちましたが、当時はまだ想像の域を出ない程度。自分は瞬発的な集中のほうが向いていると分かっていたので、ファッションデザイナーのように長時間何かに向き合うより、ヘアメイクアップアーティストの方が合っているかな、と。今も、その時の勘は間違っていなかったと思います。大阪の美容学校を卒業し、大阪で4年間のサロン勤務を経て上京。ヘアメイクのアシスタントを約3年間務めて、13年に独立しました。アーティストのあいみょんとは同郷で地元のヒーローなのですが、独立して彼女と一緒に仕事ができたのは、いい親孝行になりました(笑)。
WWD:ヘアメイクアップアーティストとして独立してから心掛けた事は?
松野:いただいた1回の仕事が次につながるように、印象に残るようにしようと心掛けました。ただ悪目立ちしてはダメだし、馴染ませ過ぎては何も残らない。何が正解かは未だに分かりませんが、当時は、自分らしいポイントを一つ以上は入れるようにしていました。尊敬する先輩方は、激しいものでなくても何かしら目に止まるものがあったので、それに憧れ、目指しました。
WWD:松野さんの自分らしさとは?
松野:よく「かわいい」と言われます。私自身はかわいいものを作りたいとは思っていませんが、ただの「かわいい」ではない、何か私らしい色や雰囲気があるのかと思います。
WWD:なぜ、ヘッドピース制作を手掛けるように?
松野:ヘアメイクアーティストを目指した高校生の時にヘアメイクアップアーティストの加茂克也(故人)さんを知り、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER MCQUEEN)」や「ジョン・ガリアーノ(JOHN GALLIANO)」のコレクションを見て、ファッションだけどテーマ性がある、インパクトのある表現に強く憧れました。アシスタント時代から作り始めてはいたのですが、その時はあまり探求できず、優先もしませんでした。独立してから再開し、表現したいものが形になり始めたのは2019年頃です。
フラストレーションからヘッドピース制作に
WWD:一度は止めたヘッドピース制作を、独立して再開したきっかけは?
松野:先ほど「自分らしいポイントを一つ以上は入れるように」と話しましたが、時代と共に、それすらかなわなくなったというか、渡された資料と同じものを作る事を求められ、自分の個性を押し殺さなきゃいけなくなり、何をしても学びを感じられなくなりました。だんだんフラストレーションが溜まり、もっと自分にしかできないものを探求したり、創造性のあるものを作ったりしたくなりました。もともとモノ作りへの憧れがあり、選択したのがヘアメイクだっただけ。仕事の延長線上にあるヘッドピースを制作する事で、自分のやりたい事が発揮でき、フラストレーションが溜まらなくなったんです。
WWD:そのヘッドピース制作が、徐々にビジネスになり始めたのは?
松野:21年に韓国のエンターテインメント業界に携わる人から声が掛かり、韓国で活動するようになったのがきっかけです。ちょうど環境も変えたかったし、海外に住みたいという気持ちもあったので、チャレンジしました。最近はファッション誌にアイドルが出るようになり、とくに韓国ではファッション業界とエンタメ業界がボーダ―レスになっていると感じます。ヘアメイクアップアーティストとしての仕事は順調でしたが、韓国では知り合いもおらず時間もあったので、ヘッドピースを制作しインスタグラムでつながった人たちと作品撮りも積極的に行いました。
WWD:韓国と日本では、作品撮りにも違いがある?
松野:日本では、作品撮りをするとしても、ナチュラルなテイストを求められる場合が多くて、自分のやりたいことを表現する場がありませんでした。逆に韓国では個性的なものやユニークなものなどインパクトがあるものを求められます。その時、いかに自分が今まで何もしてきていなかったか、技術が足りなかったかを痛感しましたね。ただ、作品をインスタにあげると気づいてくれる人がいて、フォトグラファーから声が掛かり、また新しい物を作って作品撮りして、それが仕事につながる。いい循環でした。
フォトグラファーのチョ・ギソクとの出会いが飛躍のきっかけ
WWD:自分の世界観を表現する韓国の作品撮りの方が、より松野さんに合っていた。
松野:そうですね。ある時、「イタリアンヴォーグ」の表紙やビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)などを撮影しているフォトグラファーのチョ・ギソク(Cho Giseok)さんと作品撮りする機会に恵まれました。彼がそれをインスタに載せてくれたのがきっかけとなって「ヘッドピースを使いたい」という連絡が来るようになり、K-POPガールズグループNew Jeans(ニュージーンズ)やRed Velvet(レッドベルベット)などとの仕事につながりました。
WWD:ヘアメイクアーティストとヘッドピースクリエイターの仕事のバランスは?
松野:ヘアメイクの仕事で収入を得て、自分のやりたい事はヘッドピースで表現すると分けて考えています。最近は、マネージャーがついて、広告の仕事など自分の作風の延長でできる仕事も増えました。
WWD:最近は活動の場もどんどん広がっている。
松野:韓国から帰国した当初は不安もありましたが、昨年はニュウマン新宿のウインドゥに作品が展示されたり、こうして取材して頂く機会が増えたり、順調にコツコツやっています。近々では、3月に東京クリエイティブサロン2024 K-BALLET TOKYO × TOMO KOIZUMIにヘアメイクアップアーティストとして参加しました。舞台のヘアメイクはミュージックビデオにも似ていて、プロフェッショナルなダンサーたちにも大いに刺激を受けたし、本当にやって良かったです。同じく3月にカイリー・ジェンナーが初のフレグランス「コズミック」を発売した際、イメージビジュアルにヘッドピースとリングが採用されました。
3Dでアートピースを制作
WWD:新しいチャレンジは?
松野:ニュウマン新宿の展示では、制作に3Dプリンターを取り入れました。もともとSFや近未来の世界に興味があり、それがインスピレーション源にもなっているので、これからも極力3Dでアートピースを制作したいと思っています。今後は、リサイクル素材を使った作品制作にもチャレンジしていきたいです。
WWD:ヘッドピースというより、アート作品を制作している印象だ。
松野:ヘッドピースにこだわっているわけではありません。もともとヘアメイクを仕事にしているから、顔まわりのパーツになりましたが、今はリングや首まわりに付けるものも作っていますし、今年は全身に装着できる立体物を作りたいと思っています。最終的にはっモノ(アート作品)だけで完結するのが目標です。モノを作って渡したら、それをどう使うかは渡した人の自由。クリエイティブ心はアートピースが完成した時点で消化しているので。
WWD:今後、表現したい事は?
松野:AIもこれだけ進んだ今、機械的過ぎるとテクノロジーに負けてしまうので、テクノロジーを利用するけれど、あまりに頼り過ぎないようにしたいです。人口的過ぎたり、無機質過ぎたりするものはあまり好きではないし、花も完璧な美しさでなく、朽ちかけた一瞬の美しさを表現したい。調和や共存を意識しつつ、自分のやり方で新しい表現を開拓したいですが、その開拓の仕方は今も模索中です。
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