アーティスト・クリエイター自身が楽曲を手軽に世の中に発表することができる現代において、個人で著作物の管理・運用までを行うことが彼らの悩みになりつつある。
そんな悩みを解消すべく、ワンストップで著作物を扱うアーティスト・クリエイターが新たな選択肢として考えるべき選択肢にはなにがあるのか。音楽著作権を専門分野とする弁護士の東條岳氏と著作権管理事業を主に行うNexToneの山本隆文氏に、アーティストが権利問題に直面する原因や著作権周りで注意した方が良いポイントについて聞いた。
バイラルヒットの増加は“権利問題”のトラブル生む弊害も
――近年、アーティストの活動自体が多様化し、特にコロナ禍以降はSNS経由で楽曲がヒットするようになり、メディアプロモーションがなくともヒットが生まれる環境になってきているように感じます。従来のレーベルとマネジメント契約後、ヒット曲を生み出すという順序が逆転したことにより、これまでレーベルが処理してくれていた権利問題にアーティスト自身が直面しています。東條さんはいかがお考えでしょうか?
東條:たしかに、順番が逆になることは珍しくなくなってきました。アマチュアとプロの境目の立ち位置にいるアーティストであっても、曲をアップロードする際に大きな金額が入ってくるのを想定している人は少ないですよね。たとえば、この曲が何千万回も再生されたときに自分にいくら入ってきて、それを誰に払わないといけないのかといったことを緻密に考えてアップロードする人はほとんどいない。この状況を引き起こした最大の理由は制作環境の変化だと思います。
昔はレーベルがそれなりに費用のかかるレコーディングスタジオで制作して、完成したマスターはレーベルが持って戦略会議をしてからリリースするのが当たり前でした。しかし、いまはPCを使うことで非常に安価に、かつクオリティの高い原盤ができてしまう。曲が完成してから市場にすぐに出回るので、権利処理は二の次になりやすいんです。そして世の中に出てしまうと、アーティストとしては、権利の管理よりも、「次はなにを作ろう」という思考が強くなります。そうしていざヒットしたときに「あれ、なにもやってなかった」となってしまうというのは非常によくあるパターンですね。
――SNSでヒット曲が生まれる状況になってから、東條さんの元に来る相談の内容などは大幅に変わりましたか?
東條:顧客の層は変わったように思います。昔はレコードレーベルと事務所との間の契約書チェックや交渉代理などの依頼が多かったですね。レーベルと事務所とのビジネスは定型的な場合が多く、ビジネス全体で見れば、道路に乗せたらそのまま自動的に目的地まで行けるような感じになっています。一方、大手の事務所に所属しておらず、個人に近い形で活動しているアーティストの場合は、道路が引かれてない状況でゴールまで行かなきゃいけません。「右も左もわからないので、イチから教えてもらえますか?」という相談はかなり増えました。
――個人からの相談となってくると、そもそも音楽ビジネス自体の知識がない状態からその世界に巻き込まれてしまったようなアーティストが多いですよね。法人がバックについている人たちが相談に来る場合とは教えるべき内容も全く違うでしょうし、大変なことかと思います。
東條:そうですね。著作権法の説明や一般的に楽曲の権利を管理している企業名など、基本的な内容はネットで調べればわかると思います。しかし、実際にみんながどうやって楽曲をマネタイズしているのか、管理の複雑な方法はノウハウを持っている人に聞かないと分からないんですよね。ですから、アーティスト向けのサービスにはどんなものがあってこういうメリットがあるとか、どれが信頼できるサービスであるかとか、そういった情報を欲しがる人は多いです。ごく基本的なことから次のステップに行くにはどこから手をつけていいか分からないみたいな相談は多いですね。
――なるほど。あとは使用料の徴収や利用許諾など、音楽業界特有とまではいかなくとも、特殊な取り回しをしなければならないケースも多いかと思います。そういったもののなかで、個人で管理しているがゆえに困るケースはどのようなものがありますか?
東條:法律から離れた部分ではありますが、実際に音楽業界のインフラとして機能しているために、そのルールを外してはビジネスができないといったことはあると思います。一番大きいのは、JASRACやNexToneといった管理事業者がいて、その定めるルールに拘束されるといったことですかね。今となってはYouTubeにおける音楽利用のルールも重要です。これは法律が定めているハードローに対してソフトローという言い方をしますが、民間の事業者が定めたルールに従わざるを得ないということが結構あり、このようなルールを把握しなければならないところも難しいところではあります。
たとえば、音楽業界は著作権譲渡契約ひとつとっても不思議な契約なんです。譲渡というと普通は一回的なもの。八百屋に行って「大根ください」と言って、100円で大根を1本買ったら、その大根はもう私のものになるというルールです。一方で、音楽業界における音楽著作物の譲渡契約は、譲渡だけれども10年後(20年の場合や、権利の存続期間にわたりずっと、というケースもありますが。)には返してねといった不思議なルールになっているのが一般的です。JASRACが信託というルールを採用していることもあってか、権利を実際に保有する必要があり、そのために許諾ではなく期限付きの譲渡という不思議な契約形態になっています。こういった期限付き譲渡の法的な解釈も複数あり、そういったことひとつとっても難しさがあると思います。
あと、難しいのは「自分がどれくらいの金額をもらっていいのか」わからないという点です。日本人的な奥ゆかしさなのかもしれませんが、高過ぎる金額を提示すると失礼なんじゃないかといったことを結構気にするんです。著作権法上はその人がいくらで許諾するかはその人が決めればいいんですけど、相場感を気にするカルチャーがあるので、そのニーズはすごく多いなと感じます。もちろん、音楽ビジネスのプレイヤーとして動いていくためには相場感というのはとても重要なものではあることは確かですが。
からの記事と詳細 ( アーティスト・クリエイターの著作権管理における現状と課題とは? 弁護士&著作権管理企業に訊く - Real Sound )
https://ift.tt/g0VZqYD
No comments:
Post a Comment