※日経エンタテインメント! 2023年4月号の記事を再構成
SNSなどをきっかけにブレイクする新人が相次ぐ一方、1970年代から活躍を続ける大御所も多数健在である「シンガーソングライター」。幅広い年代のアーティストがしのぎを削るシーンの現状を各種ランキングデータからまとめつつ、次世代のシンガーをブレイクさせるためのレーベル各社の取り組みについても探っていく。第1回はビルボードのアーティストランキングTOP30などから、現在人気の顔ぶれを確認していく。
シンガーソングライターのあり方が、ここ数年で大きく変わっている。新人たちが数多く生まれ、各種音楽ランキングなどで上位にランクイン。また、SNSをきっかけにブレイクを果たすシンガーソングライターも増えている。
シンガーソングライターは、自ら作詞作曲することでリアルなメッセージ性をともなった楽曲を歌い、より多くの共感を得てきた。さらには、別のアーティストへの楽曲提供も行い、幅広い世代のリスナーを獲得している。実際、松任谷由実、中島みゆき、小田和正、山下達郎、桑田佳祐といった、1970年代や80年代から40年以上アルバムチャートの上位に入る大御所のアーティストたちは、いずれもシンガーソングライターだ。
近年の音楽シーンと共に、シンガーソングライターの変遷を振り返ると、音楽の楽しみ方や社会の変化が大きな影響を与えていることが分かる。
平成の時代から音楽のヒットの中心は長きにわたりCDで、特に2010年代になると、多様な販売形態や購入特典でアイドルグループが躍進。チャート上ではシンガーソングライターが注目されづらい時代が続いた。そんな逆境の中でも、16年に『恋』を発表した星野源や、18年に『Lemon』を発表した米津玄師が、ダウンロードやミュージックビデオの再生数で大ヒットし注目されたのは、それだけ稀有な才能を発揮したからだろう。
10年代後半にストリーミングサービスが定着したことで状況は大きく変わる。より気軽に様々な音楽を聴けるようになった結果、楽曲そのものの魅力から人気が出るようになったのだ。『マリーゴールド』(18年)がストリーミングで大ヒットしたあいみょんが台頭してきたのもこの頃だ。
20年代に入ってコロナ禍となり、ライブやフェスが相次いで中止に追い込まれたことも追い風に。ステイホーム時間が長くなったことで、TikTokなどのSNSでの交流が盛んになり、ここを起点にブレイクするシンガーソングライターが急増した。
SNSがブレイクの鍵に
では次に、チャートから現在のシンガーソングライターシーンについて見ていこう。ビルボードジャパンの、CD、ストリーミング、ダウンロード、ツイッター、カラオケなどの8指標からなる「アーティストランキング」から、シンガーソングライターをピックアップした「ランキングTOP30」を作成(表1/集計期間は21年12月27日~23年1月1日)。同期間、同対象で「ストリーミング再生数TOP30」も掲載した(下表2)。
「シンガーソングライターTOP30」全体を見ると、上位に入ったのは、デビュー10年未満の若手たちが18組と6割を占めた。トップ10で、00年以前にデビューしているのは8位の宇多田ヒカルのみで、ベテラン勢はCDアルバムのセールスこそ好調なものの、15位の松任谷由実、16位の桑田佳祐、18位の山下達郎、22位の中島みゆきといずれもトップ10圏外となった。
「ストリーミングTOP30」ではそれがより顕著で、大半が若手で、最も歴が長いのは10年にデビューした16位の星野源だ。それだけ大きく様変わりしているなかで目立つのは、やはりSNS発のシンガーソングライターたちだ。
「シンガーソングライターTOP30」で1位に輝いた優里は、『ドライフラワー』が20年のビルボード年間総合1位を獲得し、累計再生数が8億回を突破。以降の楽曲もヒットし、「ストリーミングTOP30」に6曲が入る。共感性の高い歌詞と耳に残るメロディーの楽曲で、TikTokやYouTubeに「歌ってみた」動画が数多く投稿されることで人気が拡大。さらに自身も積極的にYouTubeチャンネルを活用することでファンを増やしている。
また、カラオケが特に強いのも特徴で、JOYSOUNDの22年の年間ランキングでは楽曲別で『ドライフラワー』が1位、アーティスト別でも1位に。若い世代だけではなく50代、60代といった中高年層からも支持されている。
上の世代からも高い支持を集めているという意味では、3位に入ったあいみょんもそうだ。彼女も全部門の中でカラオケの順位が高く、吉田拓郎や浜田省吾など、上の年代のアーティストをリスペクトした彼女の作風が大きく影響しているとみられる。「元祖ストリーミングの女王」とも呼ばれている彼女がブレイクするきっかけとなった『マリーゴールド』は、18年のリリースにもかかわらず、「ストリーミングTOP30」で15位にランクイン。同ランキングでは最もリリース時期の古い楽曲で、ロングセラー化が進むストリーミング時代のヒットを象徴しているといえよう。
ストリーミングTOP30にVaundyが7曲
2位は、昨年末に『NHK紅白歌合戦』に初出場したVaundy。緻密でポップな楽曲や豊かなボーカルが話題となり、ドラマ、アニメ、CMと数々のタイアップ曲を精力的に手掛け、「ストリーミングTOP30」では最多の7曲がランクインする。そんな彼の音楽活動のスタートは、YouTube。19年9月に投稿した『東京フラッシュ』のミュージックビデオが2カ月で100万再生を記録し、デビューへの足がかりをつかむきっかけとなった。
藤井風(6位)も、中学生時代からYouTubeにピアノの弾き語り動画をアップし、デビューをつかんだ1人だ。昨年は、『死ぬのがいいわ』がタイのTikTokユーザーの間から火がつき、アジアを中心に大ヒット。22年、Spotifyにおいて最も世界中で再生された日本の楽曲となった。藤井風の場合は、ストリーミングだけでなく、CD人気も高く、幅広い世代のファンを獲得している点も大きな強みだ。
また、近年の新たなヒットの震源地となっているTikTokをきっかけにブレイクしたシンガーソングライターも、数多くランクインした。
5位のTani Yuukiは、R&Bテイストの滑らかな歌声が特徴で、20年に発表した『Myra』がTikTokでバズって人気者に。その後、21年に発表した『W/X/Y』も、TikTokで主に活躍するダンスクリエーターのローカルカンピオーネが振り付け動画を公開したことにより一気に火がついた。本人も、TikTokに自身のダンス動画などをアップすることでさらに注目度を高め、ストリーミングの再生数は3億回超え。「ストリーミングTOP30」でも1位となっている。
他にも、平井大(7位)、川崎鷹也(11位)、なとり(17位)、きゃない(20位)、大橋ちっぽけ(21位)、有華(28位)、WurtS(29位)などが、Tani Yuukiと同様に、TikTokのバズからストリーミングのヒットへとつなげていった。
そして最近ではTikTokを、楽曲制作をはじめとした音楽活動の場として有効活用するケースも増えている。
なとりは、21年5月に音楽活動をスタートした19歳で、TikTokに数々のショートバージョンの楽曲を上げて人気に火がついた。そして、その中から反応が良かったダンスチューンの『Overdose』を22年9月に配信でリリース。ストリーミングで2億再生を突破するヒット曲となっており、「ストリーミングTOP30」でも10位に入った。
Wurtsは、「研究者×音楽家」というユニークな肩書きで20年に活動を開始。TikTokを研究し、ロックのヒット曲が少なかったことから、21年1月にロックチューン『分かってないよ』を投稿。毎日のようにTikTokを更新し、バズ動画へと結びつけた。最新曲『メルト』は、「JR SKISKI」のキャンペーンソングに抜てきされている。
ランク外だが、TikTokで21年に音楽活動を開始したimaseもそうだ。ショートバージョンの楽曲を上げ、その反応を見て、フル尺の楽曲を制作するというスタイルで人気を集めている。
からの記事と詳細 ( 優里、Vaundyが上位 シンガーソングライターTOP30 - 日経クロストレンド )
https://ift.tt/cQNyhiH
No comments:
Post a Comment