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Saturday, September 24, 2022

やまゆり園事件の被害者と交流のアーティスト 「差別の中で個人がどう生きるか」作品に - 東京新聞

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 障害者差別を題材にした美術作品が東京都現代美術館(江東区)に展示されている。都内在住のアーティスト工藤春香さん(44)が、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年に起きた殺傷事件の被害者との交流を通じて形にした。「『障害者』とか『被害者』とか、そういう記号化にあらがいたかった」と創作の動機を語る。(米田怜央)

自身の一人暮らしの様子を題材にした作品のソファに座る尾野一矢さん㊧と工藤春香さん=いずれも東京都江東区で

自身の一人暮らしの様子を題材にした作品のソファに座る尾野一矢さん㊧と工藤春香さん=いずれも東京都江東区で

 全長20メートルほどの白い布の表面に近代以降の国の障害者政策、裏面には当事者による市民運動の歴史が年表形式で記されている。曲がりくねって配置された布の先にあるのは、2人掛けのソファや小さなセンターテーブル、スニーカーなど。事件で重傷を負った重度知的障害者の尾野一矢さん(49)の一人暮らしの部屋を再現したものだ。

尾野一矢さんの一人暮らしの様子を題材にした作品

尾野一矢さんの一人暮らしの様子を題材にした作品

 20年間やまゆり園で過ごした尾野さんは事件後に退所し、神奈川県座間市の実家近くのアパートに入居した。「差別のある社会構造の中で個人がどう生きるのかを表した」。工藤さんが解説する。

◆妊娠中の事件で不安、その正体探るため交流

 第1子を妊娠していた16年、工藤さんは不安だった。「不健康な赤ちゃんが生まれたらどうしよう」。同時に違和感を持った。「この考えは差別ではないか」。出産直前の同年7月に事件が発生。入所者ら45人を殺傷した男は、「意思疎通のとれない障害者を安楽死させるべきだ」と繰り返した。ひとごととは思えなかった。

 相模原障害者施設殺傷事件 2016年7月26日未明、相模原市緑区の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者の男女19人が刃物で刺され死亡、職員2人を含む26人が重軽傷を負った。元職員で殺人罪などに問われた植松聖死刑囚(32)は20年3月、横浜地裁での裁判員裁判で死刑判決が言い渡された。弁護人による控訴を自ら取り下げ死刑が確定したが、今年4月に再審請求した。

 以来、心に芽生えた不安の正体を探ろうと、事件や、知的障害者などへの強制的な不妊手術を定めた旧優生保護法を取り上げてきた。より深く捉えるためにたどり着いたのが、尾野さんだった。

 工藤さんは今年1〜6月、尾野さん宅を訪れ、介助者とともにドライブや散歩に行った。会話での意思疎通は難しく、スマートフォンのカメラで目線の先を写そうとしたが、考えていることは分からなかった。

◆障害者とくくらず、個人として付き合うことが大切

 ある日、尾野さんは高台で一点を見つめて声を発した。30分間、近くにいる工藤さんには全く関心を向けなかった。工藤さんは気付いた。「同じ風景を見ても見えているものは違う。他人のことは分からない」。一方、尾野さんの様子から次第に気分を推し量れるようになった。呼ばれ方は「お姉さん」から「工藤さん」に変わった。

工藤春香さん(左から3人目)と一緒に作品を鑑賞する尾野一矢さん(中央)

工藤春香さん(左から3人目)と一緒に作品を鑑賞する尾野一矢さん(中央)

 「人には差異があって当然という前提を再認識できた。違うという意味では、健常者も障害者も同じ。障害者という記号ではなく、個人として付き合うことが大切だ」。かつて抱いたわが子への不安も「障害者」と一くくりに捉えていたからだと思い至った。「個人を知らないから漠然と恐れてしまう」

 8月中旬、尾野さんが両親や介助者らと美術館を訪れ、工藤さんが手を引いて案内した。「どう感じたか、完全には分からない。ただ、友達としてこれからも会いたい」

◆東京都現代美術館で10月16日まで作品展示

 工藤さんの作品を含むグループ展「私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」は10月16日まで。午前10時〜午後6時。月曜休館(祝日は開館、翌火曜休館)。観覧料は一般1300円、大学生・専門学生・65歳以上900円、中高生500円、小学生以下無料。問い合わせは美術館=電050(5541)8600=へ。

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