ローマ在住の美術展コーディネーター、アンナさんから緊急のレポートです。ローマの美術館ではウクライナのアーティストとの連帯を深めるべく、臨時の展覧会が開催されています。
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イタリアで最も評価の高い現代美術館の一つであるローマの国立21世紀美術館(MAXXI) が、展覧会シーズンの予定外に緊急の展覧会を開催し、美術界とウクライナの人々との繋がりの深さを証明しています。
ロシアのウクライナ侵攻から数日後、MAXXI美術館は「Ukraine: Short Stories. Contemporary artists from Ukraine (ウクライナ:ショートストーリー。ウクライナの現代アーティストたち)」展の開催を発表しました。
この展覧会は、世界各国の著名で、かつ新興の現代アーティストのミニチュア作品(10x12cm形式のもの)を収集するイマーゴ・ムンディ財団と共同で行われています。
このプロジェクトは元々、当時のウクライナ大統領が失脚した「マイダン革命」や、クリミア併合、ドネツクとルハンスクが親ロシアの武装勢力に占拠された直後の2014年に制作され、ウクライナの現代アーティストによる作品140点で構成されていました。その時から約8年も経った現在、残念ながらウクライナにおける戦争が再び話題となり、表現の自由や創造性を求めるアーティストたちの声が強くなりました。彼らはウクライナの人々がヨーロッパとともに歩むことを強く望んでいます。それゆえ、MAXXI美術館は、このウクライナのアーティストたちの訴えに対し、短期間でも特別な展示空間を提供し、来場者の注意を喚起することが急務であると考えたのです。本展の収益は、UNHCR、UNICEF、赤十字が設立したウクライナ緊急事態のための基金に寄付されることとなっています。
「Ukraine: Short Stories. Contemporary artists from Ukraine 」展のキュレーターであるソロミア・サヴチュク(Solomia Savchuk)は、キエフのミステツキーアーセナル国立芸術文化博物館複合施設の館長であり、現在パリに難民として滞在しています。サヴチュクが、自分自身の声を伝えるべく、展覧会の開幕に合わせ次のメッセージを送りました。「隣国が、平和なヨーロッパの我が家に戦争を持ち込んできた。一般の人々は、戦争のアルファベット、光を隠すルール、近くで爆発があった場合の対処法、負傷者の応急処置の仕方、グラッドロケットとクルーズミサイルの見分け方などを学んだ。プーチンの犯罪欲は8年間で増大し、ウクライナに止まらないかもしれない。 今日、これらのアーティストは単なるアーティストではなく、多くの面で祖国、ヨーロッパ、世界を守っているのだ」。
本展の出品アーティストはいずれも、残酷な紛争や不安定さをはらんだイデオロギーや社会の変化を通じて、自己を再発見し、アイデンティティを確立しようとする社会を反映しています。
それぞれの作品は、一人の人間、芸術家、人生の物語ですが、これらのものは、全体として、今日のウクライナの一つの複雑でユニークな物語に集約された複数の声を指しています。
この作品は、世界各国の紙幣を使ったグラフィック作品シリーズ「Monkey Business/Dough project(モンキービジネス/金銭プロジェクト」の一部です。アーティストは、これまでの作品では、紙幣に描かれた肖像は猿を表していましたが、今回は猿なのか人間なのかわからないように紙幣を折り曲げています。このように、政治権力のダブルスタンダードを表現しているのです。
DIS/ORDERは、Luba MalikovaとMax Proberezhskyが運営するアートグループ・デザインスタジオです。現在、コンセプチュアルなジュエリーのデザイン、ニューメディア、突然変異、宗教、社会変革、テクノロジーに関するいくつかのアートプロジェクトに焦点をあてています。
Galaganは3Dイメージの実験や、2つのイメージで構成されている絵画を制作しています。女装の歌姫の肖像は絵画の技法で作られていますが、3Dメガネで青と赤の二色のフィルターを通すと、支配的な女性の肖像(性格)と隠された男性の肖像(体格)を観察することができます。
「母の町では戦時中、携帯電話の電波が届くのは街中だけだった。そこだけ、墓地で、彼女は外の世界とつながっていた。この物語は描く価値がある」。
本作品の風景は、誕生と死の連続的かつ劇的なサイクルと結びついた闘争の状態によって特徴づけられています。現実を流動的に詩的に表現したこの風景は、残酷な表現に満ちた現代社会におけるアートの役割について、答えを導き出すことを促します。
Sydorenkoの作品の中心にあるのは、現代のポストソビエト社会における人間です。自分のルーツを求めているように、宇宙を無重力状態で飛行する人間の姿が光学的効果と濃密な赤の色彩に強調されています。
参加アーティスト一覧
Mykhaylo Aleksieyenko | Apl315 | Oleksander Babak | Inara Bagirova | Mykhaylo Barabash | Kateryna Berlova | Nazar Bilyk | Kateryna Buchatska | Volodymyr Budnikov |Illya Chichkan | DIS/ORDER | Oleksander Dolhly | Oleksander Druganov | Andriy Dudchenko | Dima Erlikh | Taya Galagan (Tatiana Gershuni) | Daniil Galkin | GAZ Art Group | Petro Gronsky | Oleg Gryshchenko | Igor Gusiev | Kseniia Hnylytska | Ilya Isupov | Dobrynia Ivanov | Alevtina Kakhidze | Iryna Kalenyk | Pavlo Kerestey | Oleg Kharch (Kharchenko) | Oleksander Kharchenko | Andriy Khir| Lesia Khomenko | Darya Koltsova | Beata Korn | Dmytro Korniyenko | Oleksander Korol | Volodymyr Kostyrko | Rostyslav Koterlin | Taras Kovach | Yuriy Koval | Vitaliy Kravec | Mykyta Kravtsov | Anatoliy Kryvolap | Dariia Kuzmych | Valeriy Kuznetsov | Dmytro Kuzovkin | Alina Kopytsa | Anton Lapov | Oksana Levchenia-Konstantynovska | Anton Logov | Mykola Lukin | Pavlo Makov | Tania Malynovska | Maksym Mamsykov | Olexa Mann | Viacheslav Mashnitskyi | Mykola Matsenko | Viktor Melnychuk | Ivan Mykhaylov | Roman Mykhaylov | Roman Minin | Anna Myronova | Maryna Moskalenko | Volodymyr Mulyk | Nina Murashkina | Aliona Naumenko | Ivan Nebesnyk | Anna Ostapetz | Francoise Oz | Iryna Ozarinska | Maria Pavlenko | Igor Pereklita | Bohdan Perevertun | Stanislav Perfetsky | Sergiy Petliuk | Ievgen Petrov | Yuriy Pikul | Viktor Pokydanets | Olena Poliashchenko | Sergiy Popov | Helen Pronkina | Kirill Protsenko | Illia Psyfox | Vlada Ralko | Ievgen Ravskyi | Vinny Reunov | Stepan Riabchenko | Oleksander Roitburd | Robert Saller | Yevgen Samborsky In Collaboration With Oksana Petrova | Oleksiy Say| Olesia Sekeresh| Olga Selishcheva| Ivan Semesiuk | Shapka Group | Anna Shcherbyna | Masha Shubina| Maryna Skugarieva | Nina Smykalova | Aliona Solomadina | Anna Sorokova | Anatol Stepanenko | Oleksandr Sukholit | Oleg Suslenko | Andriy Sydorenko | Victor Sydorenko | Stanislav Sylantyev | Tiberiy Szilvashi | Maryna Talutto | Tenpoint | Oleg Tistol | Oleksandra Tokareva | Nata Trandafir | Emma Tremba | Ruslan Tremba | Olesia Trofymenko | Valeria Troubina | Vasyl Tsagolov | Ivan Tsupka | Anatoliy Tverdy | Myroslav Vayda | Oleksander Vereshchak | Stas Voliazlovsky | Artem Volokitin | Riba Werner | Alina Yakubenko | Albina Yaloza | Ihor Yanovych | Yaroslaw Yanowsky | Myroslaw Yaremak | Oleksander Yeltsyn | Kateryna Yermolayeva /Mikhalych | Alla Yurkovska | Sergiy Zapadnia | Andrii Zelynskyi | Anatol Zvizhynski | Oleksander Zhukovskyi | Oleksandr Zhyvotkov | Roman Zhuk | Gamlet Zinkiskyi | Oleksiy Zolotariov.
「Ukraine: Short Stories. Contemporary artists from Ukraine 」展 |
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会場:ローマ、国立21世紀美術館 (Museo MAXXI) 、Via Guido Reni 4/A |
会期:2022年4月3日まで |
日時: 火〜金 11:00〜19:00、土日10:00〜19:00 |
入館料:5ユーロ (チケットの売り上げはUNHCR、UNICEF、赤十字が設立したウクライナ緊急事態のための基金に寄付される) |
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アンナラウラ ヴァリトゥッティ(Annalaura VALITUTTI)さん
1975年、イタリアのサレルノ生まれ。ナポリ東洋大学で日本語日本文学を専攻し、「遠野物語」及び「オシラサマ」を専門とする。仕事で数年間日本に滞在し、2011年には東京の慶應義塾大学に留学する。日本芸術や民俗学について特別な関心を持ち、ローマで読売新聞の美術展のコーディネーターやアートアドバイサーとして活躍している。
(読売新聞美術展ナビ編集班)
からの記事と詳細 ( 【アンナさんのイタリア通信 4】ウクライナの現代アーティストの作品を紹介、連帯の証に ローマの国立21世紀美術館が緊急の展覧会 「Ukraine: Short Stories. Contemporary artists from Ukraine」展 - 読売新聞社 )
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