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秋の恒例イベント「CGWORLD 2021 クリエイティブカンファレンス」が、2021年11月8~12日にオンラインで開催された。khakiのセッションでは横原大和氏と田崎陽太氏が登場し、それぞれの経験なども踏まえた「多忙なCGアーティストが自主制作を続けていくために必要なこと」について語った。
- 株式会社カーキ 横原大和氏
CG Director/Art Director
徹底したクオリティへの追求心をもとに、ジャンル問わずバラエティに富んだ多くのハイエンド映像作品に携わる。3Dアニメーションのディレクション、コンセプトデザイン、アートディレクションなどを得意とする
- 株式会社カーキ 田崎陽太氏
Environment Artist/Generalist
ファンタジー・サイファイの世界観構築を得意とし、コンセプトアートからフィニッシュまで全てのワークフローを一貫して担当。2022年、ルーマニアbranchで活動予定
デメリットは多いが、それでも得られるものは大きい
セッションの冒頭、横原氏は確認の意味も含めて、まずは3DCGの自主制作に取り組むうえでの「デメリット」と考えられるようなことを紹介。自身の体験を踏まえながら、以下の事柄を挙げた。
・仕事をしながらだと時間の捻出が難しい
・プライベートを犠牲にする必要がある
・クオリティを上げて作品にするには時間がかかる
・モチベーションを保てない
・欲しい結果を得られるとは限らない
・業務と同じことをプライベートではやりたくない
・新しいことをやりたいが大変
3DCGをやったことがある人であれば心当たりのあるものばかりだろうし、どれもなかなか悩ましい問題ばかりだ。しかし横原氏は、スキルアップやポートフォリオの拡充、表現欲、セルフプロモーションなどの観点から「それでも、仕事以外の自主制作から得られるものは大きい」と力説する。さらに、2010年代以降は「SNSなどを活用した個人発信の方法が増えた」ことから、以前よりも発表方法の幅が広がったことにも触れ、今後は「その方向性もさらに増えていくだろう」と付け加えた。
次に、CGアーティストが自主制作をする「目的」について、以下の点を挙げた。
・就職、転職活動のため
・ポートフォリオの拡充
・フリーランスや作家としての活動、プロモーション
・スキルアップ、研究開発
・新たな分野への挑戦
・新たな収入源、リスクヘッジ
・創作意欲や承認欲求などを純粋に満たすため
また、自主制作した作品の公開で重要になる「場所」については、横原氏と田崎氏が実際に利用しているものをピックアップする形で、以下を紹介した。
・SNS系(Twitter、Instagram、TikTok)
・ポートフォリオサイト系(ArtStation、Behance)
・動画配信系(YouTube、Vimeo)
今回はこれらのポイントを押さえながら、横原氏と田崎氏が「どのようなやり方や考え方で自主制作に取り組んでいるのか」を解説。インターネット上にアップされた作品をチェックしながら、細かなポイントや意識している点などまでフォローしてもらった。
▲セッションの様子。中央が横原氏、右側が田崎氏
きっかけは「閉塞感」、幅を広げるためにキャラクターにチャレンジ
まず、横原氏は2019年頃から自主制作に取り組んでいるが、始めたきっかけは、長年CG制作を続けてきたなかで感じた「閉塞感」にあったという。映像作品自体は増えているが「広がりに欠けている」と感じていたことから、仕事でメインになっている「背景」などとはあえて避け、自主制作では「キャラクターづくりにチャレンジしてみた」(横原氏)という経緯がある。
また、公開場所としては主にTwitter、Instagram、TikTok、ArtStation、YouTubeなどを利用。「月に何個以上の作品アップする」といった運用ルールのようなものはとくに設けてはいないが、未完成の状態やR&Dなども含めて「頻繁に上げるようには心がけている」そうだ。
ただし、例えば横原氏がTwitterを使っている目的は「フォロワーの増加」ではなく「自主制作の継続」にある。というのも、自主制作はその取り組みが一度途切れてしまうと元に戻すのが難しく、もう一度始める際に「腰が重くなってしまう」傾向にあるからだ。そこで横原氏は、文字だけのツイートでも構わないので「1日1回は投稿する」ことで、自主制作に関連した取り組みを「習慣やクセにすることを意識している」という。
▲横原氏のTwitter。横原氏の場合、例えばBlenderなどで新しい機能が実装されると、自主制作のデータを使ってその機能を試し、その成果をすぐにTwitterへアップしているケースもある。これは、CGディレクターを担当する場合は、効率やコストが良くなるような仕組みをどんどん取り入れていく必要があるからで、「そういったところも意識している」そうだ
▲横原氏のArtStation。キャラクターメインで投稿されていることがわかる
一方、田崎氏が自主制作を始めたのは2020年9月から。始める前は「大変そうだ」、「本当に効果があるのか」とやや懐疑的だったが、「khakiがルーマニアに支社を設立し、2022年1月からルーマニアで活動する予定になった」ことが自主制作に取り組むきっかけになったそうだ。
そもそも、田崎氏がルーマニアで活動する目的の1つに「海外のCGアーティストのスカウト」がある。しかし、彼らに対して何らかの伝手があるわけではないため、現状ではArtStationなどを使って有望な人材を探すことになる。そしてその際に、田崎氏自身がCGアーティストであることを相手に示せるような作品(ポートフォリオ)がないと、スカウトの話に「説得力が出ない」と考えたわけだ。そこで田崎氏は、自身のアーティスト性を示すため、ArtStationでのポートフォリオの充実を目的に自主制作を始めた経緯がある。
また、Twitterでの投稿については、横原氏ほどの投稿意識はなく、「映像に関連した気になることであれば発信していく」といった程度のスタンスだ。そのため、投稿しない日も当然あるが、「少なくとも1週間で2~3回は投稿する」といった程度には意識しているとのこと。また、ちょっとした工夫として、例えば完成作品のみを投稿するのではなく、レイアウトのみやプロップの段階、テスト映像など、制作過程の状態でもアップすることで「コンスタントに発信している」(田崎氏)。
▲田崎氏のTwitter
▲田崎氏のArtStation
▲R&Dをからめた田崎氏の自主制作の1つには、Photoshopの「風景ミキサー」機能とBlenderでの手作業を比較した作品がTwitterなどにアップされている。1枚目がベースとなる「元画像」、2枚目が「Photoshopの風景ミキサー機能を利用した画像」、3枚目が「Blenderによる手作業での画像」となるが、田崎氏は3枚目の作品を「仕事が終わった後に1時間程度で仕上げたそうだ。また、「思い立ったらすぐに行動することも秘訣」とアドバイスする
できる範囲で作業し、その中で何らかの実益を得る
次に、自主制作の進め方について横原氏は、女性キャラクターが骸骨に囲まれている新作を例に挙げて説明した。横原氏によれば、この新作は1からつくり上げたものではなく、じつは「以前に途中までつくってあった女性キャラクターのベースモデルを活用して制作したとのこと。骸骨のモデルも以前から何度も利用しているものがあったため、それらを組み合わせることで「1~2日程度で制作した」そうだ。
さらに、例えば仕事をしながら時間を見つけて自主制作するにしても、仕事などの都合を踏まえると「1ヵ月とか継続して制作し続けることはかなり難しい」うえに、仮にそのやり方で1ヵ月や2ヵ月かけても「良い作品ができるとは限らない」と吐露する。そこで横原氏は、「その1日にできる範囲で作業し、そこから何か実益を得られれば御の字」という心持ちで、自主制作に取り組んでいるという。
ちなみに、女性キャラクターのベースモデルは2019年に制作したものだが、その後はAIアプリで試しに使ってみたり、R&Dでも利用したりしたとのこと。そうやって使い倒した後でも、忘れたころに「別のアイデアと結びついて新しい作品づくりに利用される」(横原氏)ことになり、それが自主制作の作品としてアップされることにつながっている。
▲セッションで取り上げた女性キャラクターの新作
▲2019年8月に制作した女性キャラクターのベースモデル
▲ベースモデルを利用し、2021年1月頃に制作したサイバーパンク風の作品。このように、ベースモデルは何度も作品づくりに活用されている
ちなみに、若い人であればあまり問題ではないのだが、横原氏ぐらいの年齢の場合、下手な作品をアップしてしまうと「(社内外で)評価が下がる」(横原氏)という悩ましい問題もあるようだ。これに対して横原氏は、「自分の専門とは異なるジャンルにチャレンジする」という解決策を提示した。
例えば、横原氏は仕事上だとキャラクターは専門外となることため「下手でも問題ない」し、Blenderで制作した作品も「メインツールではない」といった言い訳が立つ。もちろん、横原氏としては下手な作品をつくるつもりはまったくないのだが、プレッシャーを回避する意味で「そういった言い訳も必要でしょう」と提案した。
▲横原氏がBlenderで制作した作品
一方で、田崎氏の自主制作のやり方は、横原氏とちがって「集中して制作に取り組むスタイル」となる。とくに、ArtStationにアップした最初の5作品ぐらいまでは、"早めにポートフォリオを充実させる"という目的があったことから、睡眠時間を削るほど「ストイックに取り組んだ」と振り返る。もっとも、最近はさすがに「ペースを落としている」とのことだった。
また、最初の頃は「できる限り多くのバリエーションをつくる」ことを目標に設定し、なるべく似ていない作品づくりも心がけていたという。これに加えて、それぞれの作品にはテーマというか、何らかの「技術的な挑戦」を入れ込んでおり、例えば「それまで使ったことがなかった3DCoatとBlenderを組み合わせて作品をつくった」こともあったという。
ちなみに、このような取り組みを続けていったことで、いまではBlenderが「もっとも気に入っているツールになった」(田崎氏)とのこと。田崎氏は自主制作を始めてからBlenderを使うようになったが、いろいろと試していくことでその優れた点にも気づき、最近では仕事でも利用できるまでになったとのこと。そういった経緯もあり、自主制作で「新しいツールの練習やR&Dに取り組んでいく」ことの重要性にも触れた。
▲田崎氏が3DCoatとBlenderを組み合わせて制作した遺跡の作品。自主制作を始めた初期の作品で、空いた時間のほとんどを使って3週間程度で制作された
そのほか、モチベーションについては、例えば仕事だけだと「CGの楽しさがわからなくなってしまう や、クライアントなどのオーダーに応えていると「自由にクオリティを上げられない」といったこともあるだろう。しかし横原氏は、改めて「それでも自主制作に取り組む意義は大きい」と考える。
さらに、横原氏の場合は自主制作の半分ぐらいで「仕事で使う技術やツールのテストも兼ねている」ため、これによって「R&Dの時間を効率的に確保できる」や「ひと通りのワークフローを自分1人で試せる」といったメリットに挙げた。一方で、そうはいっても「自主制作をR&Dだけで終わらせてしまうのはもったいない」ことから、作品として仕上げることで「アーティスト性を高めるようなトレーニングにもなっている」と付け加えた。
▲キャラクターの自主制作であれば、例えば「新しいフェイシャルツールを使う」といったR&Dを行なっている
また、各SNSの特徴については、海外のアーティストはInstagramを使っているケースが多く、Twitterは日本人が多いとのこと。実際、海外から仕事の依頼が来る場合は「だいたいInstagramかArtStation経由」で、日本人は「Twitter経由」になると田崎氏は指摘する。また、横原氏はそういった背景を踏まえつつ、自分を含めたCG制作会社の人たちがTwitterで有望な人材を探していることにも触れ、若い学生や20代の人たちに対して「Twitterへ自身の作品をアップする」ことを勧めた。
これに加えて田崎氏は、自主制作をしたのであれば「できるだけ多くのSNSなどに作品を展開した方が、多くの人にアピールできる」とアドバイス。田崎氏自身も、作品をつくったら「5つぐらいの場所に、同じ内容でアップしている」そうだ。
実際、それぞれのSNSでは利用者が異なる傾向があり、「Twitterをやっている人はInstagramを利用していない というケースも少なくないほか、Instagramは「Twitterよりも作品が残りやすいので、ゆっくり見てもらいやすい」(横原氏)といった特色もある。さらに、ArtStationは「海外からの話がとても来やすい」と横原氏は感じていることから、海外での活動も将来的に考えているのであれば「ArtStationにアップしておくのは良いこと。それが、何らかのきっかけになる可能性もある」と語った。
購入アセットは便利だが、そのままでは使えないことが多い
セッションの終盤では、横原氏と田崎氏が実際に制作したシーンデータを基に、自主制作で活用できる時短テックニックなどについて紹介した。
まずは田崎氏が、SF風の都市を描いた短い動画を披露し、制作工程の大まかなながれとして「まず基本となるビルのベースを5つ程度つくり、あとはそれらのサイズや向き、曲げなどを変更して配置している」と説明。さらに、ビルのベースづくりには1週間ほどかかっているが、あとはそれを上手く流用して制作していることから、シーン自体は「1日で制作した」とのことだった。
▲SF風の都市を構築した短い動画のイメージ
▲動画制作では「Blenderのハードサーフェス系のアドオンを試してみる」ことをテーマに設定。そのため、ビルのベースは「BoxCutter」や「Fluent」でモデリングされている。また、このベースは、以前に別の作品で制作したものが流用された
▲さらに、細かいディテールにあたるパイプなどにはアセットを使うことで「制作時間の短縮をはかった」(田崎氏)
このようなやり方に対して、なかには「モデルは流用しない」あるいは「アセットを使いたくない」という人もいるだろう。そういった考えに対して横原氏は、「最近ではモデル数が多くなり、複雑にもなっているので、正攻法ではなかなか終わらない超大作になることもある。それだけに、楽なやり方を活用するのはあり」というスタンスを取っている。
例えば、横原氏が制作したミステリアスな雰囲気を漂わせる不思議な部屋の作品では、「Megascans」からダウンロードしたゴミ袋のアセットが利用されている。横原氏いわく、この作品では「仕上げやライティングの練習、検証」を目的としており、ゴミ袋のモデリングにはとくに意識しなかったことから、作業効率を上げる意味でゴミ袋のアセットを使ったという感じだ。
ただし、横原氏は注意点として「購入したアセットは、そのままでは使えないものが多い」ことを指摘。アセットそれぞれに独特の"クセ"があるうえに、そのクセは「コンポジットやライティングだけでは隠し切れない」ことから、実際に利用する際には「基本的にテクスチャはすべて差し替えるほか、UVも含めてつくり替えている」と補足した。
▲横原氏が制作したミステリアスな雰囲気を漂わせる部屋の作品。奥の窓際や手前にあるゴミ袋のほか、右側の小物などもアセットを使用。全体の半分も自分では制作していないそうだ
なお、横原氏と田崎氏は現在、32コア/64スレッドのCPU「AMD Ryzen Threadripper 3970X プロセッサー」(以下、Ryzen Threadripper 3970X)を搭載したハイスペックなデスクトップPC(以下、現行PC)を使用している。4年ほど前に購入した以前のPCは、CPUのスペックが10コア/20スレッドだったほか、どちらかというと「GPUの性能を重視したモデル」だっため、以前のPCと比較すると現行PCは「はるかに高速になった」と横原氏は実感している。
さらに田崎氏によれば、最近は仕事で「Arnord」や「Clarisse iFX」といった「CPU性能に依存するツールを使用することが増えている」とのこと。そういった背景もあり、超高性能なRyzen Threadripper 3970Xのパワーを「なおさら強力に感じている」と付け加えた。
▲横原氏によれば、Ryzen Threadripper 3970X搭載の現行PCであれば、この画像のレンダリングは「数分程度終了する」とのこと。動画も簡単で短いものであれば「1時間程度でレンダリングが終わる」など、以前のPCと比較して「5倍ぐらいは速くなった」と感じている
また、現行PCはハイエンドのGPUも搭載しており、その性能は「Cycles」のプレビューなどで大きな威力を発揮してくれる。実際、かなり重めのシーンでもスピーディにノイズがなくなるため、「すぐに最終結果をチェックできる」と田崎氏は大満足。レスポンスが早いことで「自分のやりたいことを制作中にすぐに反映できる」ことから、改めて「マシンスペックの重要性」を訴えた。
▲石造りの遺跡のシーンでGPUの性能をチェック。3DCoatでのスカルプトやUDIMテクスチャ、スキャンデータなどを使っている非常に重いシーンだが、カメラワークを変更しても、数秒でノイズがなくなり、きれいな画面を確認できる
最後のまとめとして、2人に改めて「自主制作のメリット」を聞くと、田崎氏は「仕事の幅が広がった」ことや「アーティストとしての自分の価値が高まった」ことを挙げた。一方、横原氏は会社目線で「より多くの新しい人材がkhakiに来てくれるようになった」ことや、キャラクターを制作するようになったら「khakiでキャラクターの仕事を手掛けるようになった」ことを挙げ、今後も「新しい時代の新しい事柄にチャレンジしていきたい」と語ってセッションを締めくくった。
INFORMATION
raytrek NR CGWORLD x Khaki x AMD コラボモデル発売!
様々なニーズを満たす高信頼性パフォーマンスを最重視して設計されたAMD Ryzen Threadripperプロセッサーは、優れたパフォーマンスを求めるアーティスト、アニメーター、エンジニアにとって安心してクリエイティブ作業に集中できる製品です。Ryzen Threadripper 3960Xを搭載。24コア48スレッドのCPUは驚異的なマルチプロセッシング能力を提供し高速なレンダリング処理を可能にします。※32コア/64スレッドのRyzen Threadripper 3970Xへのカスタマイズも可能。
メモリは標準で32GB(8GB×4)を搭載。(最大 128GB) 3DCG業務に適したメモリ容量を搭載することで作業中の動作速度の低下を防ぎ、安定かつ軽快に創作活動に取り組めます。データの大容量化に伴い、大容量SSDの NVMe SSDを採用し、HDDの追加カスタマイズも可能。グラフィックスは、「AMD Radeon RX 6700 XT グラフィックス」(以下、Radeon RX 6700XT)を搭載。40個の強力な拡張演算を実現するコンピューターユニット、低消費電力・低レイテンシーで高帯域幅のパフォーマンスを可能にする全く新しいAMD Infinity Cache、12GBの専用GDDR6メモリを備えています。
また 4K H.264 のデコード及びエンコード、H.265/HEVCのエンコード及びデコードのハードウェアレンダリングをサポートしています。Ryzen Threadripper と Radeon RX 6700XT は PCIe 4.0 16レーンで接続され大容量のデーターニーズに対応します。
※ 記載されている会社名および商品・サービス名は、各社の登録商標または商標です。
https://www.dospara.co.jp/5shopping/detail_prime.php?mc=10668&sn=0
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