昨春からの自粛生活の中で今年2月に久しぶりの「海外旅行」をしました。米ユタ州に住む28歳の次男の結婚式出席のためです。渡航の是非を迷いましたが、最終的に私だけが渡米し日本に残った妻や娘はオンラインで新郎新婦を祝福しました。
旅慣れた私ですが今回は勝手が違いました。出国前の新型コロナウイルス陰性証明書取得や到着後の再検査、到着空港から自宅までの公共交通機関の不使用、米国と日本到着後の自主隔離など初めてづくしでした。帰路は福岡へのソウル経由便が運航中止で関西空港着となったため、妻が福岡から大阪まで運転してきた自家用車で福岡の自宅に戻り、2週間の自主隔離をしました。現況での海外渡航の難しさを実感しました。
一連の経験で痛感したのは「正しい情報を見分けること」の大切さです。例えば米国と日本の入国後の行動制限について事前に調べましたが、ネット情報は玉石混交で実際の経験でしか真偽を確認できないこともありました。アインシュタインの名言「情報は知識にあらず」を思い出しました。
英語のinformation(情報)の語源はin(中に)form(形作る)で、「心・頭の中に形作ること」を意味します。「誤った」の意の接頭辞misがつくとmisinformation(意図的でない誤情報)、「反対」の意のdisがつくとdisinformation(故意の偽情報)となります。
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私が外交官として常に重視しているのは「正しく情報を伝えること」です。一方、聞き手の誤解によって間違った情報が拡散されたこともあります。インドネシアで地方紙のインタビューを受けた時に私の経歴や抱負を語るなかで、米空軍(エアフォース)に勤めた父にならい私も空軍で6年働いたと「ひとこと」述べました。数日後の記事の見出しを見てびっくり。「エアフォースワン(米国大統領専用機)を6年間操縦」。私はパイロットではなく、もちろん大統領を乗せて飛行したことはありません。この間違いに気づいた私と異なり何十万人もの読者はそのことを知る由もなく、情報伝達の難しさを感じました。
海外では故意の偽情報拡散が問題視される国もあります。前任地のジンバブエでは国内問題を他国のせいにして政府への批判をそらす国営メディアの偽情報拡散が散見しました。政府の説明責任を求める報道機関の役割は民主主義社会において必須です。私は日本のメディアの高いプロ意識と独立性に感謝しています。
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過去の体験や思いを次の世代へ伝えていくことも肝要です。私は長崎平和祈念式典に2回参列し、昨年の「平和への誓い」を読み上げた被爆者代表の深堀さんの言葉「被爆者には、もう限られた時間しかありません」に心を動かされました。大学生の時に広島に住み、被爆者の方から聞いた体験談を今でも覚えています。今年は東日本大震災から10年。当時、札幌総領事館の領事として被災地支援に行った際の悲しい記憶や九州での経験を、多くの若者に伝えていくつもりです。
在福岡米国領事館のジョン・テイラー首席領事(53)のコラムです。随時掲載。
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