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Wednesday, April 29, 2020

新型コロナ「感染者数マップ」開発者が語る“情報の危機管理”とデータ連係の重要性 - INTERNET Watch

「都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ」

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、さまざまな公的機関が発表した感染状況に関する情報を、地図を活用して可視化し、公開する取り組みが世界各国で行われている。これにより、多くの人が可視化マップを通じて現在の状況を把握することが可能となり、感染リスクの共有に役立っている。

 このような可視化マップを日本国内においていち早く公開したのが、政治選挙分野においてコンサルティング事業を手がけているジャッグジャパン株式会社だ。同社は2月16日、「都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ」をウェブで一般公開した。このサイトには、公開から2週間で169カ国・地域から約150万のアクセスがあり、4月21日現在は203カ国・地域から2900万以上のアクセスに至っているという。

 2月29日にはリニューアルを実施し、PC/スマートフォンのレスポンシブデザインに対応したほか、地図とグラフの読み込み速度の改善も図り、同時にAPIやCSV形式のデータも公開した。さらに4月7日には、新たに緊急事態宣言の発令状況や東京都の市区町村別感染者数の配信を開始し、4月13日には厚生労働省とLINEによる第1回「新型コロナ対策のための全国調査」の結果を可視化して配信するなど、情報の充実を図っている。

ジャッグジャパン株式会社代表取締役の大濱﨑卓真氏

 このようなジャッグジャパンの取り組みについて、同社の代表取締役を務める大濱﨑卓真氏による講演が4月22日、ESRIジャパン主催のオンラインセミナー「地図を活用したリスクマネジメントセミナー」において実施された。大濱﨑氏は同セミナーにおいて、都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップに関する開発の経緯、マップを公開してから効果や今後の活動について語った。今回は、この講演の模様をレポートする。

ジョンズ・ホプキンス大学が公開した感染者数マップを参考に、日本版を構築

 大濱﨑氏はまず、都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップの概要について説明した。同サイトは、さまざまなグラフやマップが並んだ“ダッシュボード”と呼ばれる形式の情報サイト。画面左側には大きく国内感染確認数(PCR検査陽性者)が表示されており、無症状病原体保持者、国内死亡者、退院数、PCR検査実施人数などのタブに切り替えられる。

 その下には前日比の増加数、日別増加数の棒グラフが並び、さらにその右横には都道府県別の受診者数や感染者数を示した円グラフと、直近1週間の男女別・年代別の感染者増加数を示した棒グラフが並ぶ。

 画面中央右寄りには日本地図が大きく表示されており、感染者数の居住地をそれぞれ点で落としたヒートマップとして表示されており、緊急事態宣言の発令地域を示したマップとタブで切り替えられる。画面の右端の列は、発表された症例の一覧で、感染者の年代や性別、感染確定日、発症日、受診都道府県、居住地などが表にまとめられている。この一覧はCSV形式のファイルとしてダウンロードすることも可能だ。

 ジャッグジャパンがこのマップを公開したきっかけは、1月22日に米国のジョンズ・ホプキンス大学が、ESRIが提供するGIS(地理情報システム)の「ArcGIS」を使って新型コロナウイルスの世界の感染状況を表現するダッシュボードを公開したことだ。このサイトを参考に各国政府が同様のダッシュボードを公開する中で、日本ではジャッグジャパンが米国に約4週遅れて日本版を公開した。

ジョンズ・ホプキンス大学が1月に世界版を公開

 「ジョンズ・ホプキンス大学のマップを参考にして、日本の都道府県単位もしくは市区町村単位での情報が分かるように地図を作成しました。新型コロナだけでなく、地震や台風など広範囲にわたる災害では、パンデミックのようにありとあらゆる大量の情報が出回る“インフォメデミック”と呼ばれる現象が生じて、フェイクニュースやデマの温床になります。その中で、必要な正しい情報だけを探して整理することが“情報の危機管理”であると私どもは考えています。」(大濱﨑氏)

 災害時などの緊急事態では、行政からの文書の発表は速報性が重視されるため、膨大な検索性の低い情報の中から必要な情報を組み合わせて集約し、ジャッグジャパンの感染者数マップのように分かりやすく可視化する作業が必要となる。

 そのために必要なこととして大濱﨑氏は、1)情報の一次ソースの確認と情報の信頼性担保を徹底することで偏った情報や誤ったデータを除去して正確な情報を取得すること、2)危機管理業務の可用性を高めること、3)作成したアウトプットを自己満足で終わらせず、経営判断や行動判断に資する有用なアウトプットにすること――の3点を挙げた。

GISは、感染の広がりを調査分析するのに最適なツール

 大濱﨑氏は、新型コロナウイルス感染者数を可視化する上でGIS(地理情報システム)を使用した理由として、以下のように語る。

 「新型コロナウイルス感染症は人から人に感染するものであり、人が動くことによって感染が広がります。そのため、感染の広がりを調査・分析するためには地理情報を空間的に処理できるGISがふさわしいと考えました。今は昔と違って、“地図”と聞いてみなさんがイメージするのは紙の地図帳ではなく、Google マップなどの地図アプリだと思いますし、地図を使った情報提供はユーザーにとってもなじみやすく直感的であることも理由の1つです。」(大濱﨑氏)

 数あるGISの中でも今回、ArcGISを選んだ理由について、大濱﨑氏は同ソフトが世界的なシェアNo.1であり、新型コロナウイルスに関連するデータ活用においても、欧米をはじめ世界各国でArcGISがグローバルスタンダードとなっていることを挙げた。

 「今回、ジョンズ・ホプキンス大学がArcGISを使って1月後半に感染者数マップを公開して、その視認性がすごく良かった。それを参考に当社もArcGISで作りましたし、さらに、厚生労働省も3月にArcGISを使ったサイトを公開しました。ほかにも多くの国の公的機関がArcGISを使って情報を公開したわけですが、これはなぜかというと、もともと多くの国の政府や学校で、土木や水道、農業、軍事などさまざまな分野においてArcGISがすでに導入されており、それを使えば感染状況を可視化できることに気付いたからです。」(大濱﨑氏)

世界各国の政府機関が「ArcGIS」を使った新型コロナウイルス対策サイトを公開

 ジャッグジャパンもまた、以前から政治や選挙のコンサルティングを行う上でArcGISを利用した情報の視覚化に関するサービス提供や研究を行っており、感染者数マップの公開は社会貢献のためであるとともに、技術的な検証も副次的な目的としている。

コーディング不要のクラウドGIS「ArcGIS Dashboards」を使用

 ArcGISには、デスクトップやクラウド、サーバーまでさまざまな製品があるが、その中で今回、ジャッグジャパンが使ったのが、クラウドGISアプリの「ArcGIS Dashboards」だ。同アプリは、地図上のリアルタイムデータを監視・追跡・評価することに特化したツールで、コーディング不要で適切なビューをすばやく作成できる。作成したアプリはPCやスマートフォンなどさまざまなデバイスからアクセスすることが可能だ。

 「GIS製品の中にはコーディングを必要とするものや、ある程度の知識がないと使うのが難しいものがありますが、ArcGIS Dashboardsは本当に使うのが簡単なクラウドGISです。私自身、これまでこのツールを使ったことがなかったのですが、使い始めてからわずか1日で設計から画面のレイアウト、公開までを行うことができました。」(大濱﨑氏)

 ジャッグジャパンの感染者数マップのダッシュボードは、大きく分けて左からサマリー、トレンド、ディティールの3つに分けられる。まずはサマリーで概略を掴み、トレンドで最新の傾向を把握して、ディティールで細かい状況を確認したり、地図を操作することで地域別の傾向を調べたりすることができる。

 「このような画面設計は、コーディングを行ったわけでなく、マウスのドラッグでウィジェットを付け加えたり並べ替えたりして構築しました。ArcGIS Dashboardsは図表の種類やプロパティが豊富で、例えば感染者数が著しく増えているときはグラフを対数目盛で表示する必要がありますが、これも標準で用意されています。また、レイヤーを一般ユーザーと共有する場合に、レイヤーがコンテンツ配信ネットワーク(CDN)によってキャッシュされ、サーバーの負荷を減らすことができるため、世界中に配信するときの待ち時間を大幅に減らすことができます。」(大濱﨑氏)

左からサマリー、トレンド、ディテールの3つのエリアに分けられる
対数グラフを標準で用意

最低限のITスキルさえあれば、更新作業が可能

 続いて大濱﨑氏は、感染者マップの運用面についても触れた。危機管理業務をする上では、一度決めた運用を貫徹できるように、そして担当者が感染しても作業が止まらないように更新のフローを簡素化して可用性を高めることが重要となる。ジャッグジャパンでは、厚労省や自治体などが発表するPDFやHTML形式の情報を集めて、全て手作業でExcelに入力し、CSV形式に変換した上で、Dropboxにアップロードしている。

 アップロードされたデータはESRIのクラウドサービス「ArcGIS Online」と連携されて、これをもとに地理的情報が生成されてArcGIS Dashboards上で表示されるという流れになる。このとき、ArcGIS Online上ではJSON/GeoJSONも同時に生成される。厚労省や自治体が公表するデータのフォーマットは統一されていないため、Excelにデータを手入力する手間が課題ではあるものの、最低限のITスキルさえあれば更新作業を行えるのがArcGIS Onlineの強みであり、分単位でのデータ更新を実現している。

感染者数の更新フロー

 「当サイトで公開したJSONやCSVなどのデータは、新潟大学や札幌医科大学の研究室や、東京大学や三重大学の先生方などに研究資料として使っていただいてます。研究の基礎データを提供するのが私どもの役目であり、データを収集して公開するまでが仕事だと考えています。これを使ってアカデミックの分野でご活用いただければうれしく思います。」(大濱﨑氏)

 ジャッグジャパンのこのような取り組みは各所から高く評価され、4月16日にはGMOインターネットグループから同社提供のドメイン/レンタルサーバーについて1年間の無償提供を、そしてESRIジャパンからはArcGIS Dashboardsの6カ月間の無償提供を受けることが決まった。

 今後の方向性としては、速報性よりも情報密度を重視して運営していく方針で、厚労省とLINEによる全国調査のような感染者情報以外のデータの視覚化にも取り組んでいく。情報洪水の中だからこそ、「テイクアウト店マップ」など新たな取り組みも検討しているという。さらに、海外では新型コロナウイルスの関連のオープンデータが公開されており、日本でも国や地方に対して関連情報のオープンデータ化を訴えていきたいと考えている。

 「香港や台湾ではSARS流行の経験を踏まえて、今回の新型コロナウイルス感染症の対策では、感染者の居住地情報やマスク在庫などの積極的な情報公開を行っています。日本でも、今回の経験を踏まえて、情報公開のルール化や情報可視化に向けたデータ提供体制の構築、マスク・防護服・消毒液などの需給データなど民間が保有する各種データとの連係などに取り組むべきです。今回のような感染症は、いずれまた必ず発生します。そのときに同じことにならないように対策を立てる必要があると思います。」(大濱﨑氏)

台湾政府が公開したマスク在庫マップ

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