2020年3月31日公開
独立行政法人情報処理推進機構
社会基盤センター
背景
経済産業省が推進するデジタルトランスフォーメーション(DX)の時代においては、ますます激しくなるビジネス環境の変化への俊敏な対応が求められます。そのDX推進の核となる情報システムの開発では、技術的実現性やビジネス成否が不確実な状況でも迅速に開発を行い、運用時の技術評価結果や顧客の反応に基づいて素早く改善を繰り返すという、仮説検証型のアジャイル開発が有効となります。このような観点から、同省が2018年9月に公開した「DXレポート」では、DXの進展によるユーザ企業とベンダ企業の役割変化などを踏まえたモデル契約見直しの必要性が指摘されました。
そこで、IPAは、2019年5月に「モデル取引・契約書見直し検討部会」及び「DX対応モデル契約見直し検討WG」を設置して、アジャイル開発を外部委託する際のモデル契約について検討を行い、この度、アジャイル開発版「情報システム・モデル取引・契約書」(本版)を取りまとめました。
本版の作成にあたっては、ユーザ企業・ベンダ企業双方がアジャイル開発の特徴を理解した上で、価値の高いプロダクトの開発を目指して両者が緊密に協働しながら適切に開発を進めることができるモデル契約となるよう、ユーザ企業、ベンダ企業、業界団体、法律専門家の参画を得て検討を重ねました。
契約の前に共通理解を・・・WGからのメッセージ
「DX対応モデル契約見直し検討WG」では、契約の前に、
- ユーザ企業及びベンダ企業が、開発に着手する前にアジャイル開発に関する適切な理解を有していることを確認し、その活用に対する期待を共有しておくこと
- 相互にリスペクトし、密にコミュニケーションしながらプロダクトのビジョンを共有して緊密に協働しながら開発を進めること
などが必要であることを確認しました。
そのため、まず、本版をご利用いただくにあたってのメッセージを発信することとしました。
概要と特徴
本版はアジャイル開発を外部委託する際の契約条項とその解説、および補足資料で構成されています。本版で対象としているアジャイル開発の流れと体制について図1に示します。なお、本版ではアジャイル開発手法としてスクラムを採用しています。
プロジェクト立上げ時にスクラムチームを編成し、ユーザ側の事業部門内のチームと連携を図りながら、開発を進めていく。第1リリース後、運用チームを編成し、スクラムチームと連携しつつ、継続的にリリースする。
(「MVP開発」とは、実用最小限の製品(Minimum Viable Product)を開発することをいう。)
図1 アジャイル開発の流れ・体制と本版の対象範囲
本版の主な特徴を以下に示します。
準委任契約が前提:
開発対象全体の要件や仕様を確定してから開発を行うウォーターフォール開発とは異なり、アジャイル開発は、そのプロセスの中で、機能の追加・変更や優先順位の変更、先行リリース部分の改善などに柔軟に対応することができる手法です。そのため、本版は、あらかじめ特定した成果物の完成に対して対価を支払う請負契約ではなく、ベンダ企業が専門家として業務を遂行すること自体に対価を支払う準委任契約を前提としています。
アジャイル開発に関する理解を共有するための資料構成:
アジャイル開発は、迅速かつ柔軟に価値の高いプロダクトを開発するための手法ですが、ユーザ企業がその利点を生かすためには、十分なスキルとノウハウを有するベンダ企業を選定するだけでは足りず、プロダクトの方向性及び内容を決めるための主体的かつ積極的な関与が必要となり、相応の負担を伴います。そのことを十分理解せず、アジャイル開発に関するユーザ企業とベンダ企業の認識に齟齬があるまま開発を進めてしまうと、失敗するリスクが高まることになります。
そのため、本版では、ユーザ企業とベンダ企業の間でアジャイル開発に関する認識の齟齬を防ぐことができるよう、次の補足資料を提供しています。
契約前チェックリスト
契約締結に先立ち、プロジェクトの目的・ゴールやプロダクトのビジョンが明確になっているか、プロジェクトの関係者がアジャイル開発の価値観や、本版が前提とするスクラムという開発手法のプロセスを理解しているか、開発対象がアジャイル開発に適しているか、初期計画や体制が十分か等について両当事者がチェックを行い、不足があれば対応できるよう、契約前チェックリスト(表1にチェックポイントを示す)を用意しています。当事者間の理解に齟齬がある場合には、このチェックの過程で補正されることが期待されます。
表1 契約前チェックリストのチェックポイント
項目 | チェックポイント |
---|---|
1. プロジェクトの目的・ゴール | プロジェクトの目的(少なくとも当面のゴール)が明確であるか |
ステークホルダーの範囲が明確になっているか | |
目的についてステークホルダーと認識が共有されているか | |
2. プロダクトのビジョン | 開発対象プロダクトのビジョンが明確であるか |
開発対象プロダクトのビジョンについてステークホルダーと認識が共有されているか | |
3. アジャイル開発に関する理解 | プロジェクトの関係者(スクラムチーム構成員及びステークホルダー)がアジャイル開発の価値観を理解しているか |
プロジェクトの関係者がスクラムを理解しているか | |
4. 開発対象 | 開発対象プロダクトがアジャイル開発に適しているか |
1チーム(最大で10名程度)の継続的対応にて、開発可能な規模であるか | |
5. 初期計画 | プロジェクトの初期計画が立案されているか |
プロジェクトの基礎設計が行われているか | |
完了基準、品質基準が明確になっているか | |
十分な初期バックログがあるか(関係者間で初期のスコープの範囲が合意できているか) | |
6. 本契約に関する理解 | 本契約が準委任契約であることを理解しているか |
7. 体制(共通) | ユーザ企業とベンダ企業の役割分担を理解しているか |
今回のプロジェクトにおける体制を理解しているか | |
8. ユーザの体制 | 適切なプロダクトオーナーを選任し、権限委譲ができるか |
ユーザ企業としてプロダクトオーナーへの協力ができるか | |
9. ベンダの体制 | アジャイル開発の経験を有するスクラムマスターが選任できるか |
必要な能力を有する開発チームを構成できるか | |
開発チームを固定できるか |
アジャイル開発進め方の指針
アジャイル開発では、プロダクトのみならず、開発の進め方もスクラムチームによって自律的かつ継続的に改善されることが想定されています。本版では、こうした特徴を踏まえ、バックログの作成・管理等、アジャイル開発のプロセスの核心部分は契約本体に記載しつつも、開発プロセスの詳細については、「アジャイル開発進め方の指針」(進め方指針)において取り決めることとしています。この進め方指針は、スクラムチーム内の合意で容易に変更が可能な位置づけとしており、ユーザ企業とベンダ企業が、進め方指針を通じて開発プロセスについて共通認識を確立・維持することができるようにしています。
アジャイル開発の要となる「プロダクトオーナー」の役割等を明確化:
本版で前提とする開発体制を図2に示します。
図2 アジャイル開発の体制
アジャイル開発においては、プロダクトの方向性及び内容に対して責任を持つ「プロダクトオーナー」(PO)の役割が非常に重要であり、POがプロジェクトの成否を決める要の一つとなります。本版では、ユーザ企業がPOを選任することとし、開発チームが必要とする情報や意思決定を適時に提供することや、ステークホルダーとの調整など、迅速な開発を進めるためにPOが果たすべき役割を明確化しています。
一方で、ITの専門家であるベンダ企業は善管注意義務のもと、プロダクトの価値向上に向けて担当業務を行うとともに、バックログに関する助言やプロダクトの技術的なリスクに関する説明等を行うこととしています。また、スクラムチーム全体の活動が円滑になるよう支援する「スクラムマスター」はベンダ企業が選任することとしています。
なお、POや開発メンバーがその役割を十分に果たさないといった、開発を停滞させる問題が生じた場合には、早急に問題解消を図るため、権限のある責任者を交えた問題解消協議を開催できることとしています。
契約書や別紙の各項目に対しては、ユーザ企業がアジャイル開発に慣れていない場合の対応方法、大規模な開発の際に設置する会議体など、企業内制度やスクラムチームの特性、プロジェクトの内容などの状況に応じてプロジェクトごとに本版をカスタマイズするための情報を解説の中に記載し、幅広くお使いいただけるようにしています。
IPAは、ユーザ企業・ベンダ企業双方が本版を活用することで、適切な契約のもとで緊密なパートナーシップを構築し、両当事者の緊密な協働により価値の高いプロダクトが開発され、ユーザ企業のビジネスの発展につながることを期待しています。
ダウンロード
本版は、以下よりダウンロードできます。
アジャイル開発版「情報システム・モデル取引・契約書」※(ひな型)とあるものは、解説文はなく、条文と別紙のみとしています。
※ PDF形式以外の文書は、カスタマイズしてご利用いただけます。
本件の内容に関するお問い合わせ
E-mail:
"情報" - Google ニュース
March 31, 2020 at 12:00PM
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アジャイル開発版「情報システム・モデル取引・契約書」~ユーザ/ベンダ間の緊密な協働によるシステム開発で、DXを推進~:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 - 情報処理振興事業協会
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