スピルバーグから「君だったのか!」
2024年3月26日 20:00 4
日本時間3月11日に開催された第96回アカデミー賞で、「
映画ナタリーでは受賞を記念し、野島にインタビューを実施。
※高橋正紀の高は、はしご高が正式表記
取材・
野島達司(ノジマタツジ)プロフィール
1998年生まれ、東京都出身。エフェクトアーティスト / コンポジター。2019年に映像制作会社・白組に入社し、山崎貴の監督作「アルキメデスの大戦」「STAND BY ME ドラえもん2」「ゴーストブック おばけずかん」などを手がける。「ゴジラ-1.0」ではゴジラが海を泳ぐシーンの波の動きや飛沫のシミュレーションを担当した。
スピルバーグから「君だったのか!」
──まずは受賞おめでとうございます。
ありがとうございます。あ、リモート取材ですけど一応オスカー像あったほうがいいですよね。(そう言って奥の部屋にオスカー像を取りに行き、画面越しに見せてくれた野島。無邪気な笑顔を浮かべながら)めちゃくちゃ重いんですよ。
──受賞から3日経ちましたが(取材日は3月14日)、どんな心境ですか?
受賞後、アメリカにいたときはパーティ感がすごくて雰囲気にのまれていましたし、「おめでとう」という言葉にひたすら「ありがとう」と返している感じなので、まだちょっとふわふわしています。ただ、昨日会社にオスカー像を持って行って、いる人みんなで写真を撮ったんですけど、そのときに「すごい賞を獲ったんだな」と少し実感が湧いてきて。そうやってみんなでワイワイやっているときに喜びを感じて、本当によかった、楽しいなと思いました。
──授賞式前にも何度かアメリカに行ったと伺いました。
授賞式前に3回行っていて、ベイクオフ(視覚効果賞のショートリストに残った10作品によるVFXについてのプレゼンテーションの場)やノミニーズランチョン(アカデミー賞の候補者が集う昼食会)に参加しました。
──ノミニーズランチョンでスティーヴン・スピルバーグと撮った写真をSNSに上げていましたね。
野島達司のXアカウントより。
そうなんです。通訳の方が「スピルバーグいるみたいですよ」と僕らのテーブルに来て教えてくれて、「いやー似てるおじさんでしょ?」とか山崎さんたちと話していたんですが、近付いていったら「本物っぽくない?」となって。スピルバーグはディズニーCEOのボブ・アイガーと一緒にいて、最初はなかなか会話に入れなかったんですが、山崎さんがずっと見ていたら話す機会が巡ってきて。スピルバーグは「ゴジラ-1.0」を3回観たみたいで、「すごく好きなんだ」と言ってもらえました。僕が担当した水の描写も褒めてくれて、「君だったのか!」と一緒に写真も撮ってもらって……夢みたいな一瞬の出来事でした。山崎さんは
──授賞式ではアーノルド・シュワルツェネッガーと
山崎さんのスピーチが終わったあと、裏で4人(授賞式に参加した山崎、渋谷、高橋、野島)で記念撮影をしたんですが、そこにシュワちゃんとダニー・デヴィートさんが来てくれました。シュワちゃんが「Congratulations!」と言ってくれたときは「ターミネーター」が頭に浮かんだりして。そのあとはガバナーズホールという場所に、オスカー像に自分の名前が刻印された札みたいなものを付けてもらいに行ったんですが、すぐ近くに
──受賞した夜は皆さんでお祝い会などしましたか?
アフターパーティみたいなイベントに参加しました。オスカー像4本を並べて写真を撮ったり、浮かれてたなあ……。オスカー像で言うと帰りの空港の手荷物検査のとき、僕がiPadをかばんから出し忘れていたせいで引っかかって、係員の人に「荷物を開けて見せて」と言われたんです。一緒にオスカー像を入れていたので、係員の人に「Is this real?」と聞かれました。その方は淡々と仕事をこなすタイプっぽかったんですが、本物であることを伝えるとすごくいいリアクションをしてくれましたね。
「ゴジラ-1.0」ではVFXが物語に寄り添っている
──視覚効果賞にノミネートされたほかの作品(「
「ガーディアンズ」だけまだ観れてないんですが、ほかの作品は観てます。視覚効果で言うと「ザ・クリエイター」が圧倒的だなと思いました。ハリウッド映画にしては低予算なのに、あんなに先進的というか、時代を切り拓くようなものができるのは、ILM(アメリカのVFX制作会社であるインダストリアル・ライト&マジック)の超絶アーティストたちの手腕によるものだと感じます。コンポジット(実写映像とCGなどを合成すること)後の画の完成度もすさまじいですし、観客の目が泳がないようにカット割り、視線誘導などが緻密に設計されている。世界的にトップレベルのアーティストが何人も集まって作っているからああいう映像になるのであって、潤沢なお金と時間があるからではないんですよね。
──でも受賞したのは「ゴジラ-1.0」でしたね。
正直、技巧的に「ザ・クリエイター」に勝てる部分は1つもないですけどね(笑)。「ゴジラ-1.0」のすごいところは、VFXが完全に物語に寄り添っているところ。監督の山崎さん自身が設計していることもあって、エンタメ作品としてお客さんに「ゴジラ-1.0」を観てもらうときに、VFXがどんな役割を果たしているべきかがすごく考えられていると思います。映画とVFXの関わりが「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「タイタニック」に近いと言いますか。
──もう少し具体的に教えてください。
例えば「パイレーツ・オブ・カリビアン」の2作目である「デッドマンズ・チェスト」にデイヴィ・ジョーンズというタコの姿をしたキャラクターが出てくるんですが、実写にしか見えないんです。もちろん技術力もとんでもないんですが、実際に撮影した映像の中にVFXをどう組み込むかの加減が絶妙ですし、そのバランスが映画をよりよいものにしていると思います。この作品は2007年のアカデミー賞で視覚効果賞を獲っていて、「ゴジラ-1.0」も“映画におけるVFXの関わり方”みたいなことを評価していただいたのかもしれません。僕らはVFXの技術力を単純に競い合っているわけではないと言いますか。
もしILMからスカウトされたら?
──3月12日に東京・羽田空港で行われた会見では、山崎さんに「天才でいてくれてありがとうございました」と伝えていました。どんなところに天才さを感じますか?
アカデミー賞の授賞式まで3カ月くらい山崎さんと一緒にいることが多かったんですが、徐々にその答えにたどり着いたんです。監督とアーティストという関係性なので、普段は山崎さんの背中を見ている感じなんですが、一緒に行動したりインタビューを受けたりしていく中で天才であることに気付いて。一言で表現すると、あらゆることにおいてバランスを取るのがめちゃめちゃうまいんです。例えばあるシーンを作っているとき、時間を掛ければ掛けるほどクオリティは上がるんですが、全体の進行があるのでそうも言っていられない。そこで「このシーンにはどれくらいの時間を掛けるのが正解か」を考えたとき、山崎さんはすべての場面で即座に最適解を出せるんです。一番おいしいところを目掛けて狙い撃ちできると言いますか。この3カ月間、インタビュアー的な気持ちで山崎さんに質問したりして、自分の作業をしながらほかのアーティストが作ったものをすべてチェックして最適解を出していたことに気付き、「普通の人間には無理だな……」と心底思いました。映画が大好きだからこれからも映画を撮り続けるでしょうけど、たぶんなんの仕事をしても超優秀なんです。
──山崎さんへの信頼が伝わってきますが、今後も白組で働きたいという気持ちですか? 例えばILMからスカウトがあったらどうします?
ILMはすごいですが、たぶん今みたいに監督と気軽に話したりできないと思うんですよね。直接コミュニケーションを取って、ときには勝手に直したものを「こんな感じにしてみたんですけど」と見てもらって、そのVFXが全国公開される映画に使われる面白さは白組にしかないのかなと。VFXスタジオに所属して、毎日出社してくる山崎さんのような映画監督もいない気がしますし。だから山崎さんみたいな人がもう1人いて、そっちのほうが給料が高かったら行くかもしれない(笑)。でもそんな人がいたらすでに名を馳せていると思いますし、今の環境は奇跡で、それはあり得ないんです。
──今回の受賞は新しいスタートだと思いますが、今後はどんな作品を手がけていきたいですか?
これっていう作品はないんですが、強いて言うなら「スター・ウォーズ」ですかね。どうやってやるんだ?っていう話ですけど(笑)。でも、山崎さんの作品だったら本当になんでも楽しくやれると思います。だから山崎さんシリーズですね。
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