YOSHIROTTEN/グラフィックアーティスト・アートディレクター
PROFILE:(ヨシロットン)1983年生まれ。グラフィックアーティストとして、ミュージシャンのアートワークやファッションブランドへのグラフィック提供し、さらに映像や立体をはじめ、音楽、インスタレーションなど多ジャンルの作品を制作する。2015年にクリエイティブスタジオ「ヤール(YAR)」を設立。18年には東京・東雲で約1300平方メートルの空間を使った大規模な個展「FUTURE NATURE」を開催した。19年には「エルメス」の日本でのイベント「ラジオエルメス」のロゴや空間デザインを手掛け、23年3月にも同ブランドのメンズイベント「スプラッシュ トウキョウ(SPLASH TOKYO)」のアーティスティック・ディレクターを務めた PHOTO:YUTA KONO
アーティストのYOSHIROTTENは、東京・国立競技場でNFTやプリント、書籍などの多岐にわたるメディアで構成するアートプロジェクト“サン(SUN)”のインスタレーションを、4月1、2日の2日間開催した。場所は競技場敷地内の大型車駐車場で、2000平方メートルの広大な空間。そこに銀色の太陽のイメージで描いた数十体の“サン”を配置し、巨大なLEDスクリーンやプロジェクションを使った映像、音楽、スモークと照明を使った空間演出で、シンプルな作品の多様な表現に挑んだ。会場には“サン”の書籍やプリント、レコードなどを販売し、2日間で約5000人が訪れた。また3月31日〜4月2日には、特設サイトでNFTとしてもリリース。YOSHIROTTENが1日1枚の“サン”を1年間手作業で描き続け、合計365点となった連作をさまざまなメディアで発信した。アート界での活動を始め、音楽やファッション、商業施設など大小さまざまな規模の仕事を横断するアーティストが、“サン”を通じて伝えたことは何だったのか。夜にはフライヤーを自ら配布するなど、自主企画にこだわった裏側についても聞いた。
無限の可能性を秘めた“シンプル”
WWDJAPAN(以下、WWD):“サン”の構想が浮かんだきっかけは?
YOSHIROTTEN:2020年のコロナ禍に、毎日何かを作り続けようと決意したのが始まり。当時は外出自粛でスタジオを閉め、会社に行かなくなり、いろいろな場所に出かけられなくなって窮屈だった。準備していたイベントや仕事が中止になったり、延期になったり、もう少しで実現しそうなことが急にできなくなった。そこから自分自身について考える時間が増えていくうちに、自分はものづくりを続けてきたからこそいろいろな人に出会い、僕がつくったものをその人たちが喜んでいる姿に自分も喜びを感じるのだと気付いた。だから、これからもものを作り続けていこうと決意し、作品を毎日作り続けた。
WWD:“サン”のネーミングの由来は?
YOSHIROTTEN:作品を毎日作り続けて、ある程度たまってきてから“サン”という名前に決めた。それから太陽の日と言われている春分の日に本格始動するため、今年1月から今回のイベントの準備を始めた。
WWD:なぜ太陽だったのか?
YOSHIROTTEN:太陽をモチーフにしたグラフィックは、17年ごろから初日の出をイメージした作品として正月にいつも見せていた。丸とグラデーションのみというシンプルさだけど、実は表現の可能性は無限にある。色も、光も、ラインも、ずっと変化し続けられる一つの作品になると感じたからこのモチーフを選んだ。それに、一日一日を思いながら描くのは、太陽が毎日上ることとも重なったから。
WWD:365の作品には、その日その日の感情が込められているということ?
YOSHIROTTEN:そういう日もあれば、無意識に作る日もあったし、途中で方向性を変えた日もある。この日はこんな気分だったからこうした、というのは不思議なことにほとんど記憶になくて。“サン”は丸に着色しているというより、シルバーの太陽にその日の色彩が映り込んでいる感覚。宇宙について好きでリサーチしているうちに、地球の一番真ん中にはシルバーの丸い塊があるというのを知った。仮にそれが二つ目の太陽で、シルバーの海が流れているのだとしたらめっちゃかっこいいし、光を使う自分の作品にも通ずる。だから今回のメインモチーフとして使いたかった。
WWD:書籍やプリントだけでなく、今回のような大型インスタレーションやNFT、レコードなど、さまざまなメディアを横断した表現も“サン”の特徴だ。
YOSHIROTTEN:作品がシンプルだからこそ、いろいろなかたちのサンの捉え方、入り方がある。平面だったり、立体だったり、空間、音楽、匂いなど、何でもいい。音や映像を絡めたインスタレーションもその一つだし、NFTも同じだ。
WWD:NFTは過熱ぶりがひと段落した印象もあるが?
YOSHIROTTEN:確かにその通りだけど、逆に純粋な表現ができるようになったとも言える。自分がデジタルを使った作品づくりをしているのもあり、NFTが出始めたころはワクワクした。でも徐々に投資目的やお金の匂いが強くなり、レアものの価格が高騰するというスニーカービジネスに近い状況になって興味が薄れていったし、面白いプロジェクトも少なくなっていった。でも異常なムーブメントが落ち着いた今が、作品づくりにはいいタイミング。“サン”をミントする(発行・作成)と、作品の色が1年間かけて変化し、1年後には元に戻る。今日の色は明日には見られない。これはNFTの技術を生かした面白さだ。
“サン”は自分の作品ではない
WWD:“サン”は、デジタルとフィジカルの融合も試みたプロジェクトでもある。
YOSHIROTTEN:今回のプロジェクトは“フィジタル”といって、フィジカルとデジタルを融合したもの。デジタルの作品を、一つずつ手描きのようなツールで毎日作り続け、それを外の世界に出していく。さらにNFTやメタバースも行き来させることで、作り手と受け取り手の双方が“体験”できる。今後はさらにデジタル化が進むであろう状況で、リアルの体験ができる自分たちの世代だからこそ、それを感じ、考えるきっかけを提供するのがこのプロジェクトの意味でもある。
WWD:プロジェクトの一環として、宿泊体験ができる施設の構想もインスタレーション会場で発表していた。
YOSHIROTTEN:宿泊型施設“サン”ハウスは、作品への入り方の提案の一つだ。コロナ禍でマスクを着けたまま美術館に入ったときに、作品と自分との間に何かフィルターがかかっている感覚になった。だから、もし服も何も身に着けない状態で作品に向き合ったら、新しい体験ができるかもしれない。このようにいろいろなメディアや表現を使ってそれぞれの体験をしてほしいから、“サン”を自分の作品だとは思っていない。個々の作品名を日付にしているのも、誰かの今日や明日、誕生日、何でもない日など、特別な日やそうでない日でも、日々の意識を感じられるきっかけになればうれしい。
WWD:自主企画での開催に踏み切った理由は?
YOSHIROTTEN:自主企画へのこだわりはそこまでなかったけれど、早く作り込んだり、発表したりするために、結果的に自主企画になった感じ。これを見た後に、企業や自治体、国でも教育機関でも音楽家でもいいし、「何かやりましょう」という何かが起こるきっかけになってほしい。そのきっかけを作るには自分の持ち出しでやるしかないから、夜は自分でフライヤーを配り、知人にたくさん電話した。“サン”をきっかけに、関わった人たちも何かで広がる機会を作りたい。
WWD:コロナ禍で創作活動への向き合い方は変わった?
YOSHIROTTEN:もともと多作なタイプなのに、“サン”を毎日作り続けることによってその意識がさらに強くなった。まだ作ったことないものを作り続けて、かっこいいものや刺激的なものをいろいろな人たちに楽しんでほしいし、それが自分のやりたいことであり、使命であるとも感じて、それからめっちゃ働いてる。とにかく作り続けたい感覚。もちろん、休みたいときもたまにはあるけれど。
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