世界最高峰の写真コンテスト・Sony World Photography AwardsにてAI生成された画像が入賞しセンセーショナルな話題となった。
作者であるボリス・エルダグセン氏はAIに対しての理解が甘い写真業界に一石を投じたかったと語り受賞を辞退した。受賞後に「自分は生意気な猿だった」と揶揄した同氏は何をこの一件で世間に伝えたかったのか。CGWORLDが作者に独占インタビューを行った。
CGWORLD編集部(以下CGW): この度、話題となった作品 「Pseudomnesia: The Electrician」についてお聞かせください。AIを使用した制作はどのような過程で行われたのでしょうか?
ボリス氏: 特別なことはしていません。フォトグラファーとして30年のキャリアはありますが、AIの知識は世間一般程度です。Midjourney,StableDiffusion, DALL·E 2等のtext-to-image AIを活用し、こちらの画像を生成しました。
CGW: プロンプト(指示文)のコツはありますか?
ボリス氏: コツというより思考の整理法ですが、大きな枠組みから徐々にディテールを詰めていくのがベターだと思います。画像のスタイル(写真、 水彩画、油絵 etc…)は?→メインとなる対象(人、動物、建物)は?→解像度、照明、色味は?といった流れで順を追って指示するのを心がけています。AIに命令しながら、自問自答しているんですよ。自分はいったい何を作りたいんだと。
それに加えて、インペインティングとアウトペインティングについても知っておくと良いと思います。インペインティングとは、言うなれば画像内の改変です。画像の変えたい部分を修正し、不必要なものを削除する。対して、アウトペインティングとは画像の拡張を指します。単純に画像のスケールを変えるというわけでなく、生成した画像の枠外の部分をAIに補完して描いてもらうという機能です。
CGW: この作品は「あなたが作った(撮った)フォトグラフィ」という認識でよいのでしょうか?
ボリス氏: まさか。これはそもそもフォトグラフィではありません。フォトグラフィはラテン語のPhoto(光)+Graphie(書くこと)が由来です。この作品はプロンプトによってAIが作成した画像であり、フォトグラフィの定義から外れています。私の知人の写真家 Christian VincesはAI生成された写真風の画像をプロンプトグラフィ(PROMPTOGRAPHY)と名づけました。今回の作品もまさにそれです。
CGW: あなたの「Pseudomnesia: The Electrician」はSony World Photography Awardsクリエイティブ部門を受賞しました。この結果を受けて、AIが生み出すアートはすでに人間の創造性を超えたとお考えですか?そうでないとしたら、今後起こりうる可能性はあるのでしょうか?
ボリス氏: いいえ、私の見解ではAIは「副操縦士」なのです。個人の知識及び経験を増幅させるためのツールに過ぎません。フォトグラファーとしての30年のキャリアで培った知識が無ければ賞を頂けるほどの作品は作れなかったと断言できます。
CGW: フォトグラフィコンテストにAI画像で応募することで、世の中にどのようなメッセージを伝えたかったのでしょうか?
ボリス氏: 写真業界はプロンプトグラフィとフォトグラフィの違いをきちんと認識する必要があると思ったのです。実際、審査員の方々は私が事実を明かすまでこの作品がAI生成だと見抜けませんでした。業界にとってこの事実は大きな問題であり、今回の件を踏まえて写真業界のAIに対する姿勢が変わることを望みます。
CGW: AI時代となった今日、フォトグラファーを含め全てのアーティストは何を学ぶべきでしょうか?
ボリス氏: AI以前も以後も私の答えは変わりません。アーティストになるということは「真理」を追及する旅に出るということなのです。人は時代、人種、文化を超えて共通の感性を持っています。それが何かをアーティストは模索しなければなりません。視野を広げ多くのものを見て思考を張り巡らせる、私のモットーですね。
CGW: アーティストは今後AIとどのように付き合うべきでしょうか?
ボリス氏: AIを使う、使わないは個人の選択です。しかしながら、AIで生成されたただの画像を私はアートとは考えません。SNS上でAI画像を投稿し、自身のプロフィールにAIアーティストと名乗る者たちが散見されますが、その多くは低俗で、どこか既視感のある魂の抜けた作品ばかりです。
一方で、人々の衝動に訴えかけるクリエイティブなAI作品が存在しているのも事実であり、そのようなAIアートとAI生成画像を区別するためのリテラシ―向上が世界にとっての課題であると考えます。
からの記事と詳細 ( AI生成画像で世界最高峰の写真コンテストを受賞した孤高のアーティスト。写真界の異端児に独占インタビュー - CGWORLD.jp )
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