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Friday, April 8, 2022

マリウポリに描いた壁画 千葉 流山のアーティスト“平和を願い” - nhk.or.jp

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大きなカモメが描かれた絵。この絵の左下には火の手から逃げ惑う人々がいます。描いたのは、千葉県流山市に住むアーティストのミヤザキケンスケさんです。ミヤザキさんは、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの中でも激しい攻撃を受けている東部のマリウポリで、5年前、平和と共存を願う壁画を描いていました。
「いまの自分に何ができるのか」出した答えが、この絵を描くことでした。
(首都圏局/記者 稲田清)

“絵を見た人がポジティブになれるように…”

アーティストのミヤザキケンスケ(43)さんは、世界各地の紛争や貧困に苦しむ地域をめぐって、現地の人たちと一緒に壁画を描く活動を行っています。

ミヤザキさんの作品は、明るい色で描かれているものが多くあります。絵を見た人が少しでもポジティブな気持ちになれるよう、“スーパーハッピー”というのがミヤザキさんが大切にしているテーマだからです。

ミヤザキケンスケさん
「見た人がその瞬間に明るくなるような、生きることに壁があるような人たちの背中を押せるような壁面を残したいと思ってつくってきました」

5年前にマリウポリで描いた“平和の絵”

ウクライナ マリウポリ

5年前にはウクライナ東部のマリウポリも訪れました。学校の壁一面に描いたのは、ウクライナの民話を元にした絵本「てぶくろ」をモチーフにした壁画です。「てぶくろ」はミヤザキさんが子どものころに読んで大好きな本でした。
当時、マリウポリには、ロシアに一方的に併合された南部クリミアから逃れてきた人たちも暮らしていました。共存という形の絵を描こうと思い、地域の人たちと一緒にそのテーマで絵を描きました。高さ11メートルほどの大きな壁。作業には多くの地域の人が協力してくれました。

壁画では、平和と共存への願いを込めて、さまざまな地域の人たちが手袋の中で身を寄せ合っています。そのぬくもりで卵がかえり、街のシンボルのカモメが飛び立っていく様子も描かれています。

ミヤザキさん
「平和的な絵がちゃんと残って、みんな『こういう明るい平和な世界になればいいね』っていうのは、作業していた時にみなさん思ってくれました」

軍事侵攻で一変した街 “いまの自分に何ができるのか”

しかし、ロシアの軍事侵攻で街の様子は一変しました。多くの建物や生活インフラも甚大な被害を受け、深刻な人道危機が続いています。その街にミヤザキさんと親交のある女性がいました。イローナ・アルハンゲルスカヤさんです。5年前、壁画を一緒に描いた仲間です。

5年前 壁画を制作した時

イローナさんは3月、マリウポリを車で脱出し、いまは母親と娘とともにポーランドに避難しています。住み慣れた場所に戻ることができるのか、希望を見いだせないでいます。

イローナ・アルハンゲルスカヤさん
「壁画を描いた5年前、マリウポリはとても平穏で、人々は仲よく暮らしていました。さまざまな地域の人たちが暮らす街で、私たちこそが、大きな『てぶくろ』だったのです。街は破壊されました。再び住めるようになるかは分かりません。水も電気もガスもないからです。戦争は破壊と死をマリウポリにもたらしました。世界を変えました」

深く傷ついた街のために、いまの自分に何ができるのか。ミヤザキさんが出した答えが、5年前の「てぶくろ」の壁画の続編をつくることだったのです。

ミヤザキさん
「こういうことになってしまって無力感を感じて、そこで自分の気持ちはストップしていたんですけど、いまの現状はやはり描かなきゃいけないなと思いました」

“祈りや希望の絵に”

続編となった新たな絵は、これまでの作品とは異なるものでした。

左側には空襲から逃げ惑う人々。その人たちを助けようと手袋の中の人たちが必死に呼び込んでいます。現実の厳しさを表現したのです。

絵には5年前の壁画で飛び立っていった、あのカモメも描かれています。街に舞い戻り、翼を広げて手袋を包むようにしています。ウクライナの現状を描きつつも、祈りや希望の絵にしたいと思ったからです。

ミヤザキさん
「カモメが帰ってきて、平和の思いとか、共存の思いとか、そういうことを大事にする人たちを最後は守ってくれるという絵にしました」

ミヤザキさんは今、いつの日か自分もマリウポリに戻り、現地の人と一緒に次の物語を描きたいと願っています。

ミヤザキさん
「またマリウポリに行って、そこのウクライナの人たちとまた連絡を取り合って、一緒に壁画を描けたら、平和へのメッセージとかをもっとちゃんと伝えれられるような気がするので、そういう日がきてくれたらいいなと思います」

ミヤザキさんの個展は、東京・銀座のギャラリーで、4月10日まで開かれています。

作品名は「Pray for Mariupol」

取材後記

「もし紛争が起きても、敵対する人たちが壁画を見て銃を置いたらいいね」
壁画が完成したとき、ミヤザキさんと現地の人は、そんなことを言っていたそうです。しかし、現実はまったく逆でした。

イローナ・アルハンゲルスカヤさんは、マリウポリを脱出する際、10回もロシア軍に車を止められ、カバンの中身やSNSの書き込みまでチェックされていました。やっと避難したあとに、夫のみマリウポリに戻り、地下室で2週間避難していた母親を救出してもらったということです。その夫はウクライナから出られず、家族は離ればなれです。

今回の取材では、絵に込められた物語や、携わった人たち一人ひとりの物語に触れさせてもらいました。日々、伝えられる戦況のなかに無数にあるこうした物語や、物語を強引にねじ曲げる紛争の不条理さをこれからも伝えられればと思っています。

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