そんな彼女のヘアメイクを手掛けたのは、エマも出演した『女王陛下のお気に入り』(ヨルゴス・ランティモス監督)で英国アカデミー賞(BAFTA賞)やヨーロッパ映画賞のヘア&メイクアップ部門を制したナディア・ステイシー。本作で、エマ演じるエステラを白と黒が象徴的なヴィラン・クルエラに大変身させた彼女は、ヴィヴィアン・ウエストウッドやアレキサンダー・マックイーン、ジョン・ガリアーノなど独自の感性を持つデザイナーたちに加え、ドラァグ・アーティストやドラァグ・クイーンたちからもインスピレーションを受けたことを語ってくれた。
エステラからクルエラへ…同じジャーニーを辿る
かつてグレン・クローズが『101』(1996)で演じたクルエラ・デ・ビル。ナディアは彼女について、「敬意を払う必要がありました。私も愛していますし。アニメーションや同作が、私たちの知るクルエラを作ったのです。けれど、それらのルックにこだわる必要はありませんでした。反抗的でルールを破るという雰囲気をとらえればよかったんです」と語る。
「最初に出てくるときのクルエラは、かなりクラシックなクルエラと言えます。髪型はボブだし、グレン・クローズの全体像に近い。ネイルもグレン・クローズのネイルを真似しています」と言う。とはいえ、本作はクルエラ誕生までを描く“オリジンストーリー”。「クルエラが自分を見つけていく話で、グレン・クローズのルックに到達するときには、彼女は自分を完成させているのです」。
また、変貌を遂げる前のエステラに関しては、「エマと話し合って、できるかぎりリアルなルックにすることにしました」と言う。「エステラは1970年のロンドンに育った若い女性。どこにでもいる、普通の女性だと、私たちは決めました。彼女には個性もあるけれども、ヘアとメイクアップはあの時代に則していて、ちょっとパンクっぽさを感じさせる程度。クルエラに変革していく時に、変革がはっきりとわかるようにするためです。私たちもクルエラと一緒にそのジャーニーを辿れるようにするため」と語る。
「実際、私も、エステラと同じジャーニーを辿っているように感じました。エステラは自分自身を見つけようとしています。自分の中にいるクルエラを。彼女はレッドカーペットのイベントに行って大胆なルックスを披露してみせますが、私も同時に新しいルックス、肌触り、ジュエリー、ヘアスタイルなどを試して、クルエラというキャラクターのパーソナリティを見つけようとしていたんです」と続け、「私は、映画のクルエラと同じジャーニーを辿っていました」と明かす。
また、ヘアとメイクが人を変身させるという意味で「すばらしい例」と名前を挙げたのが、デヴィッド・ボウイだ。「彼はヘアとメイクでデヴィッド・ボウイからジギー・スターダストになりました。クルエラも同じことをやっています」。
ドラァグから「多くのことを学びました」
さらにナディアは、「ドラァグのメイクも参考にしました。ドラァグのアーティストも。彼らも特定のパーソナリティ、違うバージョンの自分を創造していますから。あるシーンで彼女はエステラで、周囲に溶け込んでいて誰も注意を払わないのに、夜になると全然違うルックになってクルエラとして現れるというコンセプトが、私は好きでした」と語る。
彼女は、エマと組んだ『女王陛下のお気に入り』ほか、アンソニー・ホプキンスが本年度アカデミー賞を受賞した『ファーザー』、80年代中頃の英サッチャー政権下を舞台にした『パレードへようこそ』、ソノヤ・ミズノ主演×アレックス・ガーランドのSFミニシリーズ「Devs」(原題)など数多くの作品を手掛けてきたが、直近の日本上陸は本作『クルエラ』と、ドラァグ・クイーンに憧れる高校生を描いたミュージカル映画『ジェイミー!』(原題:Everybody’s Talking About Jamie)だ。
『ジェイミー!』舞台版の主演で映画にも出演しているジョン・マクリーと仕事をして、「『クルエラ』をやる直前に、ドラァグについて多くのことを学びました」とナディアは明かす。
「イギリス人のドラァグ・アーティストでデヴィッド・ホイルという人がいますが、彼のドラァグにはパンクっぽい要素があって、大好きなんです。また、アクエリアというドラァグ・クイーンが大好きなんです。メイクが本当にすごく美しいんですよ」と語り始める。アクエリアといえば、「ル・ポールのドラァグ・レース」シーズン10のウィナーで、いまやファッション界の新たなアイコン的存在となっている。
「私は撮影中に、『ル・ポールのドラァグ・レース』をよく見ていました。彼らが、完璧なヘアとメイクで登場する素晴らしい瞬間があるんです。その後で彼らは部屋に戻って、すべてのメイクを取ります。そうすると、メイクの下の彼らがどれほど違うかということにいつも驚かされます。カリスマ・ファッションデザイナーのバロネスに、(クルエラが)エステラだと気づかれないよう、違ったキャラクターを見せるためにメイクを使うのは、とても合っていると思いました」。
「勇敢になって、記憶に残るものを作りたかった」
そうして完成していったクルエラ像。ナディアは撮影を「ものすごく大変でした」と振り返る。「(出てくる度に)まったく違うルックなんです。完全に違うヘアで、完全に違うメイク。だからチャレンジは、どこまで押すか、ということでした。どこまで大きくやるのか? そして、いつ止めるかをいつ知るのか?(笑)。なぜなら、あまりにたくさんの自由がありましたから。確実に信ぴょう性があるものにするのが大変でした。そして、いつもインパクトがあるものを作ることが大変でしたね。私は、勇敢になって、記憶に残るものを作りたかったんです」と明かす。
シーンごとのルックによって違いはあるが、「ヘアとメイク全体で、多分1時間半くらいかかったと思います。ブラック・アンド・ホワイトの舞踏会のときの赤いドレスとマスクとフェザー、ジュエリーをつけているルックには、多分もう少し長くかかった」という。
だが、ナディアを奮い立たせたのもまた、クルエラというキャラクターだったようだ。撮影中、「もっとも印象に残っているのは、私が初めて彼女をクリエイトした瞬間でした。私たちが、初めてクルエラのメイクをして、ウィッグをつけたとき。エマ(・ストーン)はイスに座っていました。そして、彼女の(クルエラの)声を試すために、違う話し方で話し始めたのです。あれは、本当にとても特別な瞬間でした。なぜなら、すべてはそこに向けて積み上げてきましたから。すべてのリサーチや、すべての準備とか、すべてをね」。
何週間にわたり準備を綿密に重ねても「目の前にいる女優のヘアやメイクを実際に見るまでは、それが本当にうまくいくかどうかはっきりわかりません。だから、エマが突然クルエラに命を吹き込むのを見ることができて、とても素晴らしかった」と、記憶が蘇るかのように振り返る。
そんなエマが命を吹き込んだクルエラについて、「彼女は勇敢だと思います。彼女は多分、自分の少し悪いところを積極的に受け入れるように努めていると思います。少し規則破りの側面をね。そういった強さやエンパワーメントがあると思います」とナディア。
「トレイラーがリリースされたとき、人々の反応がそういうものでした。『ワオ。これはディズニー映画にしてはクレイジーだ』っていうものでしたから。彼らは、こういう作品だと予想していなかったんですよ。私はその点が大好きです。それが(クルエラの)魅力だろうと思います。人々は、(映画で)見るものに驚くことになると思いますよ」と、言葉に期待を込めて続けた。
「誰にでもなりたい人になれるという自由があれば」
特にお気に入りのルックを聞いてみると、「それはいつも変わります(笑)」と言いながら、「大きなレッドカーペットのシーンは大好きです。彼女がやって来て、レッドカーペット上でとても大きな注目を集めるところ。また、顔中にジュエリーをつけて、ゴミ収集車に乗っているところも」と応じる。
「彼女がアニタのオフィスに助けてくれるように頼みに行くときのルックも大好きですね。あのルックは、衣装と共にとても簡潔だと感じます。あのルックのすべてが。彼女は、黒のチェックの衣装を着ていて、ヘアもメイクもすべてが…彼女は本当に素晴らしく見えると思います」と自ら太鼓判を押す。
そして最後に、本作がコロナ禍に公開されることにも意味があるとナディアは語る。「私たちは、いろんな規則によってすごく抑えられてきました。だから、私たちが(コロナ禍から)抜け出し始めるとき、誰にでもなりたい人になれるという自由があればいいなと思いますし、それはクルエラにもうまく合っていると思いますね」。
「私はすでに、インスタグラムで(クルエラを)再現したルックを見ています。人々がそういうことをしているのを見るのはとても楽しい。そうやって人々がメイクで遊んでいるのを見られるのはね。なぜって、私たちはノーメイクで、家にずっと閉じこもっていたから。この映画が、人々が外に出かけ始めるようになったとき、もっと勇敢なルックに挑戦してみることをインスパイアするといいなと願っています」と語り、日本の観客にも「何か勇敢なことをやりましょう」とアドバイスを送る。
「勇気を出して、ルックに挑戦してみて。ルールブックは捨てて、何か違うことをやってみるんです。そして、アイメイクが濃すぎないかとか気にしないで。強烈なアイメイクでも、強烈なリップと合わせることができます。勇敢になって、実験してみて」と、“勇敢になることを恐れないで”というメッセージを伝えてくれた。
からの記事と詳細 ( 「自分を創造する」『クルエラ』ヘアメイクが語るドラァグ・アーティストとの共通項 - cinemacafe.net )
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